第2話 信じ続けた想い

 私とディオン様の出会いは本当に幼い頃、それも物心つく前の赤ん坊の頃だったそう。

 つまり物心ついた時にはすでに毎日のように一緒にいたわけだけれど、それはなぜか。

 二人の両親のマリエット侯爵と国王が幼馴染の関係であり、昔から強い信頼関係で結ばれていたから。


 私たちは同い年であり、同じ秋の暦生まれ。

 体格差もあまりなく一緒に遊ぶ私たちは、まるで双子のように大事に大事に育てられた。

 侯爵家の子供でありながら王宮の奥庭園へと招待されて、お互いの母親と共にお茶会を楽しんだり、ディオン様と王宮にある書庫室で過ごしたりと、仲良く過ごしていた。


「なあ、クラリス」

「なんですか? ディオン様」

「大きくなったら僕がクラリスを幸せにする! だから結婚してほしいんだ」

「──っ!」


 そんな風にプロポーズをされた昼下がり──

 当時8歳だった私は嬉しくて嬉しくて、ディオン様のまぶしい笑顔に見とれる。

 私はその約束を大事に持って育ち、勉強熱心だったディオン様を隣で支える決心をした。



 ディオン様と私は同じ王立学園に通って今年卒業。

 卒業したら正式に結婚の準備を進める予定だった。

 だけど、そううまくはいかなくて、ディオン様が変わってしまったのは今年の夏頃だった。


 王立学園は爵位や国の決めた階級わけに従って、クラス分けがなされている。

 つまり、王族に近い者、親類や国の重要職の子息や令嬢はAクラス、そしてそこからBクラス、Cクラスとランクが下がっていく。

 私とディオン様はもちろんAクラスだったのだけど、クロード伯爵令嬢はBクラス。

 これは私の予想だけど、教室が隣でもない校舎自体が分かれているBクラスのクロード伯爵令嬢がディオン様に会えたのは年に一度あるダンスパーティーがあったから。

 国の利益向上のため、各貴族の親交を深めるために、爵位など関係なくこのパーティーが催されるので、そこで出会ったに違いない。

 実際に今年のパーティーはいつも通り最初こそディオン様は私をエスコートしてくださったけど、少しの間いない瞬間があった。


 きっとその瞬間こそに出会ったに違いない。

 クロード伯爵令嬢は皆が口をそろえて「可愛い」と言う美貌の持ち主。

 ディオン様もそんな彼女に惹かれるのも無理ないかもしれない。


 それでも、私はディオン様のことを好きだったし、未来の夫になるのはこの人なんだって思ってた。

 運命のひとはこの人なんだって。



『大きくなったら僕がクラリスを幸せにする! だから結婚してほしいんだ』



 そんな小さな頃の約束と、そしてその時にくれた花を大事に押し花にしてそれを髪飾りに入れ込んで毎日ついていた。

 だけど、あなたの心はもう私に向いていないのね。


 信じていたけど、信じて待っていたけど、もう私の事を必要ないと思っていらっしゃる。

 そう、そうなんだったら……。


 残念だけど、私は私の人生を生きなければならないの。

 だから、あなたとは今日をもってお別れすることにするわ。


 この髪飾りもいらない、あの時の約束もいらない。

 全部、全部、思い出はもうあなたにお返しいたします。


 さようなら、愛しかった人──


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