筋肉に聞いてみろ

松丘 凪沙

第1話


 妻、頼子が殺害された時刻、ボディビルダーである夫の肉月筋太郎はボディビル大会での衆人環視の中、ポーズを決めている最中だった。


 サイドチェスト、ダブルバイセップス、サイドトライセップス、モストマスキュラー。出場者たちが次々と繰り出す肉体美にオーディエンスは酔いしれていた。大会の熱狂の余韻もそこそこに帰宅した筋太郎は、絞殺された妻の死体を発見したという。


 被害者は自宅でイスに座らされた状態で死亡していた。また、体からは睡眠薬が検出された。かなり強い力で首を絞められたようで、首の骨が折れていた。


 容疑者として彼女の浮気相手の男が浮上したが、その男はガリガリでとても骨が折れるほどの力で首を絞められるはずがない。


 しかし死亡推定時刻、筋太郎は離れた大会会場にいた。


 彼はどうやって衆人環視の中で離れた場所にいる妻を殺害したのだろう?



 立花がいつものように真相を披露する。


「これは遠隔殺人だ。手術ロボットを使えば数百キロ離れた場所からでも手術ができるという。そのロボットを応用して彼は大会に出ながらにして妻を殺害したんだ」


「彼はサイドトライセップス、モストマスキュラーの順にポーズを披露した。サイドトライセップスの時に後ろ手に操作デバイスを握り込んで、モストマスキュラーの動きを使ってロボットアームで妻の首を絞めたんだ」


 「ボディビル大会を使ってアリバイを作るだなんて筋肉に対する裏切りだよ。君は自分の筋肉に顔向けできるのかい」


 そう問いかけると筋太郎ははっとした顔をして項垂れ、全てを自白した。筋肉は裏切らない。そう信じてきた自分が筋肉を裏切る形になってしまったのだ。 


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