第16話 しゃっくり200回

ヒルデガルド嬢はマリア嬢とランチをして帰る運びとなった。


マリア嬢は食事の際にもヒルデガルド嬢に叱られていたが、嬉しそうに笑っていた。そこには確かに友情があった。


そして私を先頭に、騎士達に囲まれながらヒルデガルド嬢は再び王城の廊下を歩いている。午前中より人通りが多い王城は、更にこれみよがしな嫌味が続いている。しゃっくり100回では少なかったか。


静々しずしずとヒルデガルド嬢の行列が進む中、前から堂々と歩いてくる子供が見えた。お坊ちゃんだ。


「騒がしいですね。王城はいつからこの様に下世話な世界に成り果てたのですか?」


可愛らしい声が、つんざくような喧騒を止めた。


「良い大人がコソコソと悪様あしざまに言うとはみっともないですね。このような大人にはなりたくないものです。ああ、反面教師というものですか?だとしたらありがとうございます。貴重なことを習ったと父とクリングヴァル公爵に伝えますね。私は記憶力が良い方なので良かったですね」


お坊ちゃんがニコリと笑うと、貴族達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。みっともない。ここはお坊ちゃんの顔に免じて、しゃっくりが200回止まらない魔法で許してやろう。


「アウグスティン様、公爵家のご子息ともあろう方があの程度の嫌味に反論してはいけませんわ」


おーい、ここでも指導って、ヒルデガルド嬢もいい加減にしなさい!ここはお礼を言うところでしょう!


「僕は子供だから関係ありません。言いたいことは言わせてもらいます」


ニコリと笑って流すお坊ちゃんは、1日で強くなったね。私は感動して涙が出ちゃうよ?


「アウグスティン様……『僕』は……」


「今は子供だから良いんです。ですがここからは、ヒルデガルド嬢の婚約者です。大人に相応しい行動をします」


お坊ちゃんは騎士の女性達をすり抜ける。さすが身体能力抜群なだけある。騎士達が驚いているじゃない!


「お手をどうぞ、婚約者様?」


お坊ちゃんがスッと手を差し出した。エスコートしようと言うのだ。この国で1、2を争う権力者の家系がふたりでいれば、それは誰も陰口など言えないだろう。ましてやお坊ちゃんは正当なる後継者だ。


「………………」


お人形さんは動揺してないように見える。でも、よく見るとその指が微かに震えている。男性恐怖症は子供でも駄目なのか……。


「……よろしくお願いしますわ。アウグスティン様」


お人形さんがお坊ちゃんの手の上に手を重ねる。お坊ちゃんはその手を握ったりしない。だからだろうか。ヒルデガルド嬢のお付きの人たちも一様にホッとした顔をする。


そしてそのまま、ふたりは歩き出した。


もう、お坊ちゃん、オルガは感動の涙が出ちゃうよ!子供の成長は早いと言うけれど、お坊ちゃんは早すぎだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る