第14話 しゃっくり100回

色々考えるとここはやはり、城の誰もが知っている頼れる侍女オルガおばさんだろう……そう思い、城の入り口でお人形さんを出迎える。


すると驚いた。馬車からゾロっといつもの侍女が5人出てきた。それだけではない。どうやら先行でお人形さんの実家クリングヴァル公爵家からも女性騎士達が来ていたらしい。


クリングヴァル公爵家の紋章を背負った女性騎士達の人数は10名。侍女と合わせて15名がお人形さんを取り囲む。これ……私、らなくね?


まぁ、これも情報収集の一環だ!城内を行き来する貴族や城付きの者たちの視線を無視しながら、マリア嬢の待つレッスンルームへと向かう。


皆のコソコソ声という名の、わざと聞こえるように言ってるよね?という声が聞こえる。


「お気の毒に……王太子の我儘に突き合わされて……」


「いやいや、実家のことを考えて断れなかったのだろう。クリングヴァル公爵家といえど王家には逆らえない」


「あらあら、大勢の騎士と侍女ね。まだ王太子妃だとでも言いたいのかしら?」


「復習されると思っているのかも知れないぞ?だって王太子の婚約者マリア嬢に一生治らない傷を負わせたんだろう?」


「ええ、嫉妬からですって。人のマナーばかり注意しておいて自分のマナーはどうなの?って感じよね」


「相変わらず何を考えているのか分からない無表情で冷酷な佇まいだ。あれでは王太子から嫌われても仕方ないだろう」


「子供の頃のトラウマで表情がでないとか言ってるけど本当かしら?同情されたくて嘘をついているのではなくて?」


「美してくもあれではな。新しい婚約者の子供も可哀想に。連日叱られていると聞いたぞ?愛の囁き方も知らない、子供に対するいたわり方も知らない冷酷な女性だ。いずれ子供の方が逃げてくだろうな」


「本当……可哀想にね。泣くことすらできないお人形さんは」


これは酷い。皆、言いたい放題だ。


お坊ちゃんから聞いていた。お人形さんの足を引っ張ろうとする輩が多いと。お坊ちゃんは実際には聞いたことがなく、人から聞いた話を私に言ったのだろう。だから柔らかく言ったのだ。だってこれは誹謗中傷だ。皆が皆、白い目でお人形さんを見ている。そして皆は分かっているのだ。ここでお人形さんを取り囲む騎士達や侍女が何をかすることがないことを。


ここで反論したり、睨んだり、暴力に訴えたら、お人形さんの負けだ。貴族間では聞き流すことも大事だ。それでも前を向いて凛として立たなければいけない。分かっているからお人形さんも、必死に前を向いているのだろう。侍女達や騎士達も心の中の炎を隠しているのだろう。


だけど魔女である私には関係ない。あまりにも頭に来るので、しゃっくりが止まらなくなる魔法をかけてあげよう。大丈夫……100回出たら止まるから。



そうして私たちはしゃっくりが鳴り響く廊下を後にして、マリア嬢が待つレッスン室へと向かった。

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