第5話 やることが本当に山のようにある
人が一人、死ぬ。生命維持活動ができなくなる。
それだけといえばそれだけなのだけれど、それに伴うやらねばならないことが、これほどあるとは。
夫が急死して、警察の検死があって。何故かその時、死体検案書なるものを大量にコピーしたものを刑事さんからわたされたのだが(後々とても配慮してくださったのだと心底分かる。あの時、担当してくださった警察関係者の皆様、ありがとうございました)、これが葬儀社のスタッフの方もコピーしたものをくださった。
最初は分からなかったが、この死体検案書、とにかく提出を求められる。必ずといっていいほどに。そして届けを出さなければいけないものの多さに、頭がくらくらした。
あとは名義の切り替え。そして、今の自分達の立場がどういうもので、どんな支援が受けられるのか、日本という国のシステムを調べる必要があった。
夫が亡くなった日、子供がぽつりと「お母さん、シングルマザーになっちゃったんだね」と言って、ハッとさせられた。
この日から、夫の死亡届けを出した時から、私が世帯主であり子供の全責任を私が負うと、理解したからだ。
シングルマザーや寡婦について、調べるだけ調べた。夜はとくに不安で眠れない。とにかくスマホで色んな単語を打ち込み検索しまくった。
そして昼間はというと。葬儀社の担当さんがくださった、やることリストを片付けていく。
このリストが本当に本当に役に立った。葬儀の進め方だけじゃなく、その後の手続きのことまでがのっていた。
クレジットカードはカード会社に電話して止めること。電気やガスの名義変更。年金事務所のこと。
丁寧に分かりやすい、遺された人に寄り添ったサービス。本当にすごいな、と思った。
スタッフさんには「奥さん、本当によくやっていますよ」と労いをうけた。
そう、スタッフさんは本当によく気遣ってくれて、何度も「寝れていますか?」「食べれていますか?」と聞いてくれた。ありがたかった。
三日目を過ぎるとなると、疲れも出てきていたが、気力を振り絞って通夜と告別式の手配をした。
急なことだった為と、時勢も考えて、ごく身内だけで行うことは各所に連絡してあったが、それでも夫とお別れに一目会いたいと言ってくれる人がたくさんいて、それこそ想定外の人達までもが連絡をくれた。
その一人一人に失礼のないように対応できたかは、定かではない。いや、きっと失礼があっただろうと思う。
心疾患と糖尿病を患っていたお義父さんはノータッチで、私が通夜と告別式の送迎をしたくらい。まったくあてにできなかった。
むしろ夫の友人や、私の友人が助けになってくれた。受付を引き受けてくれた友人もいた。皆、本当に親切だった。
周囲の理解や手助けがあっての、夫の見送りだった。なかでも私の一番の我が儘を叶えてくれたのが、葬儀社のスタッフさんだった。
当初、住まいの近くの(歩いて行ける距離である)火葬場つき葬儀場に、私と子供は泊まらず遺体だけ安置する予定だった。
けれど私は夫の傍を離れたくなかった。最後の夜は一緒にいたかった。
それを担当の人に伝えると、葬儀場に許可をとってくれ、宿泊場所ではないのに休憩室に毛布等を持ち込んで良いことになり、急遽、私と子供は葬儀場に泊まれることになった。
私達は最後の夜を、一緒に過ごすことができた。それを可能にしてくれた人達に、本当に本当に感謝している。
怒濤の六日間だった。私の今までの人生で、この六日間ほど辛く拷問のような時間はなかった。
不安と不眠とやらねばという責任感と。とにかくお葬式が終わるまで。
それまでは耐えるんだ、と。子供と毎晩そう呪文のように唱え、二人で手を握りあって寝た。
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