第67話 ソル 対 エモスレス司教
土の国 首都アルティザン ヴェント宮殿跡
シンハとシャインゴーレムの戦闘は続いている。
最初はシャインゴーレムの高速移動についていけなかったシンハだった。
しかし――
ビュオッ!
ガキン!
!?
「驚いているのか? 人形にも感情があるとは……なぁ!」
ドゴォ!
高速で突進してきたシャインゴーレムを真正面から受け止め、蹴り飛ばす。
だいぶ目が慣れてきたのか、今では肉眼で残像を捉えられるようになってきた。
追撃として走り出すシンハ、しかしシャインゴーレムはすぐに体勢を立て直す。すぐにシンハの接近に気がついて高速移動で逃げる。こうなるとシンハは追いつけないので、追撃のダッシュを止める。先ほどから、この繰り返しになっていた。
「シャインゴーレムの攻撃は防げるようになった…………でも、こっちの決定打はない」
闘気を練っても、シャインゴーレムのスピードの足元にも及ばない。いくら聖剣が強力でも、当たらなければ意味がない。
「何か打開策を考えないと…………」
ジリ貧の状況に焦るシンハ。
しかし、シンハよりも先にシャインゴーレムが先手を取った。
不意にシャインゴーレムはシンハに向けて手のひらを向けてきた。
「……? なんだ?………………!?」
ゾワっと悪寒を感じたシンハ。
本能的に手のひらの向きにいない場所へ移動しようとする。
その瞬間だった――
ビュゥッ!――――ドォォン!!
「――ッァア!?」
シンハの横を何やら熱い『モノ』が飛んでいった。
それはシャインゴーレムよりも素早かった。
シンハを掠めて通っていった『モノ』は遠くの壁に衝突して大きな音と共に爆発が起こった。
シンハは掠めた腕を抑える。
皮膚が少し抉れ、傷口は焦げていた。
「な、なんだありゃ!? あんなの喰らったら…………」
想像したくない自分の姿が目に浮かび、顔面蒼白になるシンハ。
シャインゴーレムは手のひらを下ろすと、高速でシンハに近づき殴りかかる。
咄嗟にシンハは剣で受けるが、シャインゴーレムは受け止められた拳を開くと、手のひらをシンハに向ける。
シンハは先ほどの『モノ』が来ると直感して、腕を払いのけて慌てて転がりながら離れる。
次の瞬間、ビュオッ! という射出音と共に天に『モノ』――『熱光線』が放たれる。シンハはやはり速すぎて見えなかった。
「…………マズイな、反撃……できないかも」
今までにない不利な戦い、そんな予感を覚えたシンハにシャインゴーレムは再び襲いかかってきた。
シンハは慌てて逃げる。
また熱光線で攻撃される、と警戒したためだ。
シンハは逃げながら考える。しかし打開策が思いつかない。
チラリとソルの方を見るシンハ。
そこには火の国で見たエモスレス司教がいた。
このままだと二人の対決が始まる。
助けに行きたいが、シャインゴーレムで手一杯……どころか勝てるかも分からない。
「ソル……そっちは任せたぞ!」
*****
所変わって、ヴォロンとゲラーブ—————
「……!? エモスレス……やつも来ていたのか」
「あん? あいつも邪神教かよ!」
ブォン!
「おっと! 斧を振り回しながらの会話は危ないですよ?」
「オメェに当たったら止めてやるよぉ!」
ヴォロンは相変わらずゲラーブ相手に攻撃を続けていたが、ゲラーブは周囲の様子を確認しながら避けるほど、余裕があった。
「あのエモスレスという男はデセフの上司……邪神教の幹部である司教です。一応私と同じ目的だったので協力してもらっていました」
「オメェ…………ホントに腐ってたんだな。それに気づかない自分の間抜け具合に反吐が出るぜ!」
「ははは! 自分を卑下しないでくださいよ。間抜け…………というよりも鈍感なのはドワーフの特性でしょう?」
「は! だったらテメェもだ……ろぉ!!」
ブォン!
「……言ったでしょ? 私は異端のドワーフなので」
「なんなんだよ、オメェはよぉ…………なんだってんだよぉ!!」
怒り、ではなく悲痛なヴォロンの叫び。
兄であるヴァルス王の弟子。
当然、弟であるヴォロンも交流はあった。
一緒に酒を飲んだこともある。
可愛げもあったから弟のようにも思っていた。
それが、こんな腐った男だった。
見抜けなかった自分も、そして当然ゲラーブへの怒りと悲しみは計り知れない。
しかし、ゲラーブはそんなヴォロンの姿を見てもただ、せせら笑うのみ。
「はは、面白いですね。そんな感じで私と接していたなんて…………だったらもっと貴方を徹底的に追い込んでおけば、いい絶望を味わってもらえたかもしれないなぁ」
「な、なんだと!?」
「…………ふむ、まだ間に合う、か?」
不意に何かを思案したゲラーブは、邪悪な笑いを浮かべてヴォロンに告げる。
「ヴォロンさん、答え合わせをしましょうか」
「あん? …………なんのだよ?」
「すべてですよ。ヴァルス師匠の死、邪神教との出会いのキッカケ………………そして、
「!!? ど、どういうことだ? なんで兄貴だけじゃなく、あいつらの死がここで出てくるんだよ! あいつらは、
「………………ふふふ」
不敵に笑うゲラーブ。
その笑顔は、今までで見たことないくらいの醜悪なモノだった。
*****
さらに変わってソルの戦場――
ヘカトンケイルに勝利したソル。
そして、突如現れた邪神教の幹部、エモスレス司教。
ヘカトンケイルは霧散して黒水晶とデカン宰相が残った。
その状態に驚いたのか、エモスレス司教は眉を顰める。
「あれ? 『依代』が残るなんて珍しいな〜。 よほど強い意志があったんだ〜、意外」
「ヨリシロ?」
「ああ、黒水晶でモンスターになったモノたちを我々邪神教では『依代』って呼んでいるんだよ〜」
「あっそ」
「本来はモンスターとしての死を迎えれば、依代は霧散するけど〜、意志が強いとそのまま遺体は残るんだよね〜」
「…………」
「よほどこの国のためにっていう意志が強かったんだね〜。まあそれが僕たちにとっては絶好の瘴気製造チャンスだったんだけど〜」
そう言いながら、エモスレス司教は黒水晶を回収しようとする。
しかし、それはソルが許さない。
すぐに駆け出してエモスレス司教を攻撃する。
「『近づくな』」
「ぐっ…………きかん!!」
火の国でも使った呪文。
一瞬ソルの動きが鈍くなり、スピードも遅くなる。
しかし、ソルはすぐに瘴気を闘気で弾き飛ばし、元のスピードに戻る。
だが、一瞬のスピードダウンでも十分だった。
エモスレス司教はすぐに黒水晶を回収し、飛び退いて距離をとる。
「ふふ〜、キミが僕の呪文を吹き飛ばすことは火の国で知っていたからね〜! 残念でした〜!」
「残念? へへ……そいつぁ違うぜ? 俺は嬉しいんだ」
「はい?」
ソルは笑う。
心底嬉しそうな………念願叶った、そんな表情だった。
「火の国じゃ手が出なかった…………今はどうなのか、これでシロクロつくなぁ!!」
火の国では力の差が歴然だった。
あれから数ヶ月、火の国の訓練とこれまでの実践経験でどこまで詰まったのか。
そして、
ずっと心のどこかでシコリとなっていた。
「俺は今日、あんたを超えていく! そして邪神教も全員ぶっ飛ばす!」
「…………」
エモスレス司教は何も反応しなかった。
ただ目を細めてソルを見つめる。
打倒、邪神教——————
今までそんなことを言う者たちはたくさんいた。
聖心教、各国の兵隊、強者を称する戦士…………他にも色々といた。
だが、そのすべてを打ち倒してきた。
洗脳、殲滅、屈服…………あらゆる方法で心を折り、瘴気を生み出して邪神の供物にしてきた。
しかし、そんな反逆者たちを見てきたエモスレス司教は、ソルを見て、今までにない警鐘を感じた。
火の国で見たよりも強く、逞しくなったソル。
まるで別人のようだった。
「…………シャクだけど、ハティネスの言う通りだったかも」
「は?…………!?」
ブワッと瘴気が舞い上がった。
これまでに感じたことがない、濃密な『邪念』。
「今回は見逃さない。キミはここで…………消すよ〜」
「はっ! それはこっちのセリフだ!」
ソルも闘気を全開にする。最初から本気だ。
ソル対エモスレス司教――
その火蓋が切って落とされた。
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