遠い田舎ではそこそこ有名な家に産まれ、この春から親元を離れて暮らす幸精院 絢斗。

 スポーツ強豪揃いの令皇高校れいおうこうこうに進学し、期待とワクワクと不安も混じりながら寮生活を初めた。


 彼女は出来たことがない。

 恋愛経験もないが、厳格な家庭で過ごした彼は一般的な良い悪いを身につけ真っ直ぐ育った。


 右も左も分からない、初対面の人ばかりと過ごしてまだ一ヶ月も経たない中、どうすれば相手してもらえるだろうと自問自答する日々もあった。


 そんな時に、薄村 彩智と出会った。

 同期とはいえ異性ということで初めは恥じらいもあったが、同じく別で遠い田舎から都会に出てきた彼女と話し始めた。


 同期から冷やかされ、先輩からも付き合うのではと噂が立つ最中。

 

 

 ◆◆◆



 目を開けない。

 口内は泡のような唾液が残って気持ち悪い。

 

 硬め、でも少しフカフカした物が背に当たる。

 上には布? いや布団なのか?


 間もなく頭も体も重く動きにくく、すぐに絢斗は体を起こせなかった。

 薬品のような匂いが鼻腔内にふんわりたまり、気持ち悪いのでフッと出す。

 一緒に鮮血混じりの液体もたらりと流れるが、その気力は中々回復しない。


 自分の部屋ではないのだろう。

 おそらく保健室か?

 

 「何があったんだっけ?」


 やっと声に出せた絢斗は直前のことを思い出そうとして……。

 

 「!?」


 顔が真っ赤になり、頭に血が上った。

 鼻息荒く蒸気のように何度も吹き出て、興奮した。


 部活でゴキブリに驚いた彩智が胸にダイブして二人一緒に倒れた。

 そのまま……。


 「いや、まさかな。そんな触られているはずがないんだ。

  女子に触られるとかそんなん高校の間とかありえないし」


 彩智に自分のケントを掴まれ、絶頂して泡を吹き出した。

 恥じらいが頂点に達して行動不能になったと、信じたくない。


 あの時掴まれたのは腕や何かだったのだと決め込む。

 そうだと信じたい、まだ15歳の少年は体に覚えた感覚をふと忘れ去ろうと。


 ぎゅっ。


 「そうそう。こんな感じだったっけ」


 体全体が暖かくポカポカするような気分に変わる。

 先がツンツンと刺激され「うっ」と正直に体が反応した。


 「ああ、そんな、まだ高校生なのに。成人もしてないのに」


 小さなことだが大人への階段をまた一歩進む。

 夢の中にいる快楽がそのまま現実世界にも持ち越せばいいのに––。


 「(これは夢なのか?)」


 絢斗は気持ち良さと同時にifストーリーを考えた。

 今自分のケントを弄られているのは夢の中でのことであり、これは決して現実ではないのだと。


 だが、これがもしもリアルだったら。

 包み込む布の中に何か細く柔らかいものが入り込み、再びケントを刺激した。


 「(やっぱりこれは夢なんだ。そうに決まっている)」


 疲れた体に謎の回復力が発動されたのも束の間、絢斗は眼だけはずっと閉じていた。


 一本が、二本に。

 三本に。


 正面のドアをくぐり抜けた精鋭達が確かに掴んでいる。


 「(気持ち良い夢……っ!)」


 ケントの付け根をたどり、球体にまで届きコロコロと転がされていく。


 「あっ! ……」


 声が出てしまった。

 ボーリングの球を転がすのとはまた違う。

 手で、指でコロコロと転がされる快感。


 しばらくして再びケント本体に伸び、そして––。


 「……」


 ようやく絢斗が目を開き、体を起こした時には保健室には自分一人しかいなかった。

 絢斗はケントの方を気にして様子を見ると、ニチャリとネバネバした液体を見つける。


 「やっぱり夢だったんだ。はぁ」


 興奮が止み、どこか落ち着いた賢者のように悟った。

 その後、他の部員が倒れた絢斗のお見舞いに。

 彩智と絢斗に起きたこと、練習試合で彩智が喜々を破ったこと等。

 絢斗が倒れていた時に起きたことをよく話しては、反対に冷やかしも受けた。


 「だから付き合ってないよ」


 絢斗と彩智は付き合っている。

 という事実はないので真っ向から否定する。

 ただ、モテない男子部員達に言われて少し優越感に浸り彼らの話を聞く。


 「え? 薄村さん保健室来てたの?」


 話の流れで彩智が絢斗の身を案じて保健室に行くとは他の部員は聞いていて、それを絢斗は知るが結局会うことはできなかった。


 「きっと俺のこと気をつかって起こさなかったんだろうなー」


 それを聞いてより一層、他の非モテ部員達は囃し立てる。

 付き合っているを越えて、昭和の夫婦かよと。


 「だから違うってばあ」


 恥ずかしそうにいう絢斗。

 それでも来てくれたことはお礼を言わないといけないかな……。


 「(この場合って、俺から謝りに行くのか?)」


 この次に彩智と会った時にどのような声をかければいいのか、絢斗は悩んだ。

 

 「薄村さんには怪我がないかどうかとか、聞いてみようかなあ」


 

 ◆◆◆



 女子寮。

 薄村彩智の自室。


 空いた小さなペットボトルに白濁とした烏賊臭い液体が彼女の指からポタポタと流れ落ちる。

 落ちる瞬間にそれをじーっと凝視し、匂いを嗅ぎ、全て落ちきってしばらくは蓋をせず開け余韻を味わう。


 まだ満たされない容器の空きは、自分の心の情景を重ねているように。

 満ち足りない、溢れさせたい欲望が彼女を加速させる。

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