第三章 四合院古宅(7)
陸子涼は自分の手に視線を落とした。
今、彼の左手の薬指には白清夙と同じような赤くて細い線で出来た指輪がある。二つの指輪の間には無形の赤い糸で繋ぎ、二人の運命をしっかりと結んでいる。
白清夙には、この赤い指輪が見えない。
陸子涼は赤い指輪を握り締め、外せるかどうかを試していたが、彼の指が直接に指輪を通り抜け自分の薬指を握った。だから彼は無駄にその実体のない指輪を弄って、視線を落として考えていた。
月下老人が離れる前、もう赤い糸の具体的な操作方法を彼の魂に刻み込んだ。
簡単に言うと、毎日の子の刻、つまり夜中になったら、彼は白清夙の指輪から一本の独立した赤い糸を取り出せる。毎回取り出せる赤い糸は同じ長さだが、白清夙が彼に対する愛の重さによって赤い糸の重さが変化する。
手だけじゃ重さの変化を感じられない。その月下老人の天秤宝器でしか重さが測れられないから、山腹にあるボロい廟に戻らないといけない。
いつの日にか、その赤い糸が天秤のバランスを崩せるような重さに達したら、彼は天秤のもう片側から自分の命を取り戻せる。
今になって見れば、多分彼は子の刻でしか赤い糸の指輪に触れられないようだ。
何としても今日は一回だけでも、絶対に「子の刻に赤い糸を取り出す」ことを試し、ハードウェアがしっかりとしていることを確認しないといけない。攻略計画を立てるには、まずここに長く住み着けるようになってから、また考えることにした。
今二人はまだ知り合って間もない。彼はまだ白清夙の性格と好みもよく知らないけど、それでも関係ない。
陸子涼はもう一度携帯電話を取り出して部屋を出た。
人はご飯を食べる時、多くの情報を漏らしてしまう。二人で面と向かって座って一緒にご飯を食べれば、色々なことが分かるようになると確信している。その時、この危険な氷山さんを攻略できたこともそう遠くないはずだ。
陸子涼は自分の魅力にすごく自信を持っている。渡り廊下を通り抜け入り口ドアまで歩いていき、さっき諦めた出前計画を再度実行するため、入り口ドアで住居表示を撮影するつもりだ。今は夕食の時間、白清夙がいつ戻ってくるか分からないから、夜食になれそうな料理を頼み、それと自分にも一つのピータンと豚肉入りのお粥を頼むことに決めた。
何せお湯入りのご飯はあまり美味しくなかった。
空はもうすっかり暗くなり、夜の四合院はまるで気味が悪くて黒い帳に包まれたようだった。
古めかしい屋敷は歳月をかけて洗練された味わいを隠し切れない。まだらと裂け目の一つ一つは流れていく歴史の痕跡だ。夜の帳の下に冷風がひとしきり吹き、廊下は陰気で怖く、いつでもお化けが出そうな雰囲気に陸子涼は心の中で異様に怖がった。速足で中庭を横切って、直ぐに入り口ドアまで来た。
入り口ドアには二つがあり、うちにある木製ドアを通ったらまた何歩を歩き、横向きの露天廊下を通りぬけば、一番外にある大きな鉄のドアに着く。
廊下にあるセンサーライトはパッとつき、陸子涼は携帯電話をカメラモードに変え、慌ててその大きな鉄のドアを開け、住居表示を撮ったら帰るつもりだ。
でもドアを開けたら、どこから来たのか分からない陰気な風がヒューと吹き、直接に陸子涼の体を吹き抜けた!
その瞬間、身に染みるほどの肌寒さを感じた。
陸子涼はよろめいてドアに支え、困惑しながら顔を上げて外を見てみると、俄然と血だらけで歪んだ顔にぴったり目が会った!
陸子涼は瞳孔を酷く縮めた。
その人は陸子涼の身長と比べて頭半分よりも背が低く、びしょびしょな体は青白くて腫れ上がっていた。滴り落ちた水は地面の土を濃い色に染め上げ、強い水の生臭さが錆びた鉄の臭いを混じって、鼻を衝くほどの酷い匂いが伝わってきた。その血だらけの顔はまるで何かの重い物に殴られたように、鼻筋の骨は折られ、顔の骨も凹んだ。彼は少し顔を上げ、割れている眼窩には充血した両目がある。その眼差しには憎たらしくて怖い。ブラックホールのような口はパクパクして、かすれた恨みに満ちた宣告を出した。
「僕は……彼の……命で償わせてもらう……!」
彼はそう言いながら、ぶらぶらと足を上げ、中に入ろうとした!
陸子涼はいきなり我に返って、恐怖で全身に冷や汗がかき、直ぐに手を振り放してドアを閉めた!
──カランコロン!
大きな鉄のドアが閉め切る直前に、青白い手に差し込まれ、すぐさまにドアを抑え、ぎしぎしと力を込めて外に向かって引かれた!
怖がってる陸子涼は怯えながらもドアを抑えた。「くそくそくそくそくそ──」
こんなものに入られてたまるか?!
彼は両足を分けてのけぞって、綱引きのように力を込めてドアを引っ張って、またカランと大きな音が鳴り、その青白い手の指が分けられるほどに挟まれた!外から凄まじい悲鳴が伝わり、陸子涼はそれを聞いてぞっとした。歯を食いしばって鉄のドアを幾つかの隙間ができるまでに開け、もう一度力を込めて内側に引っ張った!
カランコロン!
青白い指の持ち主は瞬時に指を引き抜き、大きな鉄のドアはようやくしっかりと閉めた!
陸子涼は直ぐにカランコロンと鍵をかけ、ぎっしりとドアノブを掴んで、まるで敵と向き合っているように鉄のドアを暫く見つめ、外からは何の音も聞こえないまでに、ようやく呼吸することを思い出した。
「くそ?」彼は軽く息を切らし、また二回も深呼吸をした。ゆっくりと手を離した。「びっくりした……俺は霊視能力を持ち始めた?そう言えば、当時湖の中でもあいつを見たな……ちぇ、これが死亡の副作用なのか。じゃあ今後の毎日はホラー映画の中に生きているみたいになったじゃん?なんてこった、毎日お化けに会うとかごめんだ!」
彼はショックを受けてまだ落ち着けず、ある意味自分もお化けであることすらも忘れた。外にあるあいつとあまり区別がなく、ただあいつよりも一つの仮住まいを持っているだけだ。
陸子涼は自分の胸を撫で下ろし、来た道を歩きながら、もう一度恐怖が収まらないままため息をつき、「はぁ、びっくりした。さっきは何をしようとしたっけ……?ああ、出前を!もう、何で出前を頼むだけでこんなにも難しいんだ。居間で手紙の住所を探してみよう。あそこなら、流石にお化けは出ないだろう。でもさっきのお化け、彼は……誰かに命で償わせてもらう……と言ったのか……」
声が段々小さくなり、陸子涼は足を止め、頭がくらくらしてきた。
彼は軽く眉をひそめ、手を伸ばして木製のドアの枠に支え、言葉にできないほどの気持ち悪い感じが胸から広がり、まるで誰かに氷を詰められたように、怪異な冷たさが心から四肢に巡り渡った。全身の血液はまるでひとしきり陰気な冷たさに浸透されたように、絶え間に寒さに震えた。
「何で急に……」
陸子涼の顔色が悪くなり、歯を食いしばって前へ進もうとしたが、木製のドアの敷居を跨ごうとした時に、突然目の前が真っ黒になり、そのまま敷居に倒れ込んだ。
彼の濃密なまつげは急速に震え、あがきながら目を開けようとしたが、最終的に頭を傾げ、徹底的に意識を失った。
古い屋敷は静寂に包まれた。
急に廊下にあるセンサーライトがピカピカと輝き始めた。
それからカランコロンという音が伝え、大きな鉄製のドアの鍵は急に弾き飛ばされた!
ギヤ――
鉄のドアが開けられ、冬の冷たい風が入り込んだ。びしょびしょの両足が踏み入れた。
深い色のじめじめとした足跡はゆっくりと入り込んで、露天廊下を通り抜け、敷居に倒れこんでいる陸子涼のそばに少し止まった。
それから、その者は陸子涼の体を跨いで、音を立てずに木製ドアの敷居に通り過ぎて屋敷に入った。
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