第17話 幼馴染

「――それで、『イグニールの心臓』以外は全部売ってポーションを2つ買った残りが……この2200円、と」

「うわ! これがあなたの家?向こうだったら悪くないけど、確かに他と比べるとボロいわね」

「しかも……。しかもしかもしかもしかも亜人を1人連れて来るなんて……。陽一が探索者になったらお店の改装とか、バイト募集とかも考えてたのに……。これで基本給が少なかったら余計に貧乏じゃない。はぁ。最悪バイト増やさないと。なんのために私があの時陽一に勝ちを譲って上げたのか、これじゃ分からないんだけど」


 家に帰ると、俺を迎え入れてくれたのは無口で無骨だけど優しい親父と心配そうな母さん、そして口うるさい幼馴染みの速水葵。


 昔はクールな優等生って感じだったのに……やっぱり飲食店で働いているとこうなるものなのかな。


「2人もいいんですか? 誰とも知らない亜人を受け入れるなんて」

「貧乏暮らしでもいいなら俺は構わん」

「賑やかなのはいいことよ」

「……。あなたの家族、凄くあなたに似てるわね」

「そうかな? 俺は2人ほどお人好しじゃないけど」

「はぁ……」


 俺たちの会話に頭を抱えてため息を漏らす葵。

 気にしてくれるのはありがたいけど、何もそこまで……。


 それに俺なんかより葵の方がよっぽどだろうに。


「とにかく新しい人が来たんだったら歓迎会ね。ちゃちゃっと何か作りましょうか。因みにそのドラゴンの心臓はどうするの?お母さんもお父さんもそんなの扱ったことないけど、どうすれば美味しいのかしら?」

「モンスターの肉は俺が調理しないと食べられないから、まぁとにかくこれは俺に任せてよ」

「……。陽一が料理、だと」

「息子にこういうこと言いたくはないけど、あんたに任せるのはちょっとぉ……」

「2人の言う通り!まさか前に作ったあの黒いのをまた食べろって言うの?」

「? 私の主は料理が上手いぞ」


 非難轟々の俺の料理の腕にミークがさらっと疑問を投げ掛けた。


 すると親父も母さんも葵も口をあんぐりと開けながらミークを見た。


 ミークがバカ舌だってこのまま誤解されないためにも、いきなり腕を振るってやるか。


 あ、ついでに言うと俺が『料理強化』を使わずに作ったものを食べるとみんな次の日は必ず寝込むんだよな。


「『料理強化』発動。イグニールの心臓でここにいる5人、全員分、できるか?」

『素材確認完了。5人分……可能です。ですが量の都合上バフの効果を受けられる分は3人前のみ。割り当てを開始します。……。ステータスの獲得が出来ていない人間を確認。3人前という最大値での料理開始に失敗しました。ステータスを獲得していない存在は問題なく料理を食べれますが、全ての料理効果が対象外となります』

「ポーションとかと同じ感じか。構わない。それでどんなバフが予想されるんだ?」

『イグニールの心臓【B+】、予想バフ【煉獄の炎(永続)】、死ぬ間際に過去に犯した罪を浄化、その苦しみから解放された時に1度だけ怪我も病気もない澄んだ状態で復活します。またこの素材を複数用いて料理を作った場合基本バフをさらに重複させることが可能です』


 リバイブのバフ。

 ゲームとかだとかなり効果なアイテムとか、ラスボス前に見るバフ。


 これ、30万でも安過ぎる性能なんだけど。


「嫌だ、みんないるのに一人言なんて」

「違いますよママさん。多分これがスキルの効果。本当にあるんだこんな世界……」


 1人バフの効果に興奮していると、俺のスキルになんとも言えない表情を見せた葵。


 その理由を知っているだけになんとなく俺は気まずくなって顔を背けたのだが、人見知りしないミークが考えなしに口を開いた。


「人間はそんなにスキルが珍しいの?」

「珍しいよ。亜人はたまに連れてる人を見かけるけど、スキルを外で使うところなんて初めて。あなたは知らないと思うけど、探索者と一般人じゃそれくらい知識に差があるの。だから多分知っちゃいけないことも沢山あるんだろうなって……」

「なりたいの探索者に?」

「なりたかった、かな。ははは……。でも貧乏な料理屋でも、後悔してないし楽しいよ。さてそんなことより……どんな料理が出てきても大丈夫なように口直しの料理でも準備しますか」

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