第8話 テイム
「いいですよ。俺実家暮らしで今は部屋も余ってますから」
「ああそう、じゃあ遠慮なく……っていいの? 本当に? というか寝場所までねだったつもりなかったんだけど」
「なんとなく状況を考えたらそこまで必要だろうなって。母もいますし、女性でもある程度安心してもらえるとは思えるんですけど……。嫌なら別に――」
「嫌じゃない! というかこっちの世界でダンジョン外で生活なんて……。外の世界ってやっぱり文献通りなのかしら?」
「文献?」
「ええ。私のいた世界には度々こっちの世界のものが転移されてくることがあって……特に高度な絵によって記されたあの文献はユーモアさえあって……。ってそんなのあなたの方が知ってるわよね」
なんとなくだけど漫画のことか?
あれは基本フィクションだからなぁ。
変な知識ばっかり植えこまれてなければいいけど……。
それと急にテンションが上がったところを見ると、それが召喚に応じた本当の理由の一つだったりして。
「それで依り代ってどうなるんですか?」
「それはもう簡単よ。あなたが私をテイムすればいいだけだから」
「テイム……」
ステータスの欄には記されているけど、実際どうすればモンスターをテイムできるのか未だに判明していない。
こんな簡単に言ってくるけど、勿論俺がその方法を知ってるわけない。
「もしかしてだけどテイムの方法知らないの?」
「……はい」
「こっちだと奴隷文化がないってことかしら? まぁいいわ。テイムはお互いがそれを了承した状態で血を飲み交わせばいいだけ。都合よく私もあなたも傷口があるから……」
「ちょ、ちょっと!」
「あら、ちょっと染みたかしら?」
「そういうわけじゃなくて――」
「なら今度はあなたがここを舐めて頂戴。それでテイム完了よ」
「は、初めてあった人にそんなこと……」
「人、ねえ。あなたのそういう言葉は嬉しいけど、うじうじされるのは嫌い。だ・か・らっ!!」
「もごっ!!」
ミークさんは切り傷があった指を無理矢理俺の口に突っ込んできた。
いくら俺がずぼらな男だからって舐めるのも舐めさせるのもセクハラなんだけど……。
『【獣人族:雌牛型】のミークをテイムしました。ステータス画面からミークのステータスの確認が可能です。今後ミークが取得した経験値の半分の数値が主に即反映されます。また、主の稼いだ経験値の半分の数値がミークに反映されます。これは元々得られる経験値量が減少するというものではありません。ただしそのデメリットとして、お互いに【職業進化】のレベルが引き上げられます。主とミークの間でダメージは発生しません。基本バフの共有が適用されました。経験値取得量増加のバフが重複しました』
バフがまた重複、それに経験値の共有。
料理人に職業進化が適用されるなんてこと自体ほぼ諦めてたことだったから、これだけの恩恵に対してデメリットはそんなに痛くない。
というかこんなに経験値がもらえるなら引き上げられたレベルですらあっという間かもしれない。
「これからよろしくね。そういえば名前は?」
「栗原陽一っていいます」
「陽一ね。私のことはミークでいいわよ。それと呼び捨てで構わないから」
「了解です」
「それで、早速だけど私のステータス見る? 結構強いスキル持ってるのよ、私。それにレベルも上がったばっかりで――」
「多分まだまだ上がるから、その後に確認させてもらうよ」
「え? ……。ああ! これを食べてその分でレベルが上がるって思ってるのね! でも残念。私これでも今時点でレベル6だから、そんな簡単には――」
ミークが全て言い終わる前に俺はミノタウロス串を一口。
その旨味に感動を覚えると同時に再びアナウンスが流れた。
『レベルが【15】に上がりました。ミークのレベルが【11】に上がりました。レベル10を超えたことでステータスボーナス(全能力+100)が得られました。ノーマルスキル:真空波(拳から放たれる真空の波で遠くの敵にダメージを与える)を取得しました。パッシブスキル:食い気(消化が早くなり、腹が減りやすくなる、食べることのできる量が増える)を取得しました』
「――嘘、でしょ? 私、もう11レベル?」
「やっぱりこんなにレベルアップが早いのっておかしい――」
「おかしいに決まってるでしょ! ……。テイムされたけど、召喚師と違って強制的に言うことを聞かせるようなものじゃないから、ぐだぐだ自由にこの世界を楽しもうと思っていたけど……」
「そんなこと思ってたのか……」
「ここまで簡単にレベルが上がるなら、もっともっと強くなって、戦いたいって意欲が……。やっぱり半分モンスターなのね、私」
「それは助かるよ。俺の実家貧乏だからさ。自分の食う分くらいは働いてもらいたいって思ってたんだ」
「え? ……。……。ごめんなさい、この主チェンジで」
『不可能です。それよりもステータスポイントが無振り状態です。ステータスの確認をしますか?』
なるほどミークとはアナウンスも共有できるようになったのか。
なんかこのやり取り3人パーティーみたいになってきてちょっと楽しいかも。
「はは……。はい、じゃあ確認します」
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