第12話 勇者VS魔王
一人突っこみ、魔物たちを斬り刻む。
どんな巨体だろうと、小さくてすばしっこくても変わらない。
勇者である俺を前にしたら、無力だ。翼が生えてる奴だけは面倒だったが。
屍の山を築きながら魔王へ向けて突撃していると、レオンとエレナの声がした。
「アーサー! 待ってくれ!」
振り返ると、そこには剣も杖も持っていない二人がいた。
「テメェらはいらねぇって言っただろ。いまさら何の用だ」
「い、いやそれがな? 内通者って奴を見つけてよぉ。それがなんと……」
そこまで言わせて、レオンをぶん殴った。吹き飛ばされ、地面を転がっていく。
「雑魚の足手まといが俺に取り入るために嘘でも考えたのか!? いらねぇんだよ、そんなもの!」
「で、でもね! 私も見たけど、本当に内通者が……」
「いらねぇってのが聞こえなかったのか!?」
怒鳴ると、エレナは腰を抜かしてその場に崩れ落ちた。
失禁しているようで、つくづく情けない。
「俺はこれから魔王とタイマン張りに行くんだよ。テメェら雑魚は、精々魔物の餌にでもなってやがれ!!」
言われ、振り返ったエレナと起き上がったレオンは、俺へめがけて襲い来る魔物たちの大群を目にして固まっていた。
「た、助けてくれ! 頼む! なんなら足だって舐める!! 勇者パーティーじゃなくてもいい!! だからアイツらから守ってくれぇ!!」
「お願い助けて!! 仲間でしょ!?」
知るか。精々美食家の魔物の餌にでもなってろ。
背を向けると、二人の悲鳴が聞こえた。
次第に断末魔の叫びが聞こえると、二人とも死んだようだ。
雑魚が勇者に縋るのが悪い。
二人のことなどすぐに忘れ、まだまだ数の多い魔物たちを見渡す。
「チッ、雑魚供がウジャウジャと……鬱陶しいぞ!!」
立ちふさがる魔物たちを剣の一振りで薙ぎ払う。
魔力を宿した衝撃波は更に遠くの魔物を切断し、勇者である俺の道が切り開かれた。
「そっちもか? 魔物は小賢しい奴ばかりだな!」
さっきから背後や側面から囲もうとしているようだが、この俺にそんな策が通じると思っているのか。
勇者として与えられたありったけの魔法と斬撃で次々に倒してやる。
「だからまとめて叩いた方が楽なんだよ。クソッ! 国王なんかの命令無視して魔王城に突撃してりゃよかったか?」
まぁ、もうそんな過去のことはどうでもいい。
後ろの騎士団に向かった魔物は知ったことではないが、魔王を守ろうとする本陣は目の前だ。
魔王様を守れだとか、やかましい声を上げる魔物を炎で火あぶりにする。
「む?」
強力な魔力を感じた。
いい加減に魔王も重い腰を上げたようだ。
姿は見えないが、迫ってくるのを感じる。
「この感覚……ハッ! 面白しれぇ! メチャクチャ強いじゃねぇか!」
このまま斬り込んでいけば、本陣は総崩れ。
命を張って魔王を守ろうって奴がどれだけいるのか見ものだ。
「そらそらそら! 道を開けろ雑魚どもぉ!」
そうさ! 簡単なことだったじゃねぇか!
馬もいらない! 仲間もいらない! 俺一人いたらいい!
そうとも、俺は勇者だ。どんな策も、数も、俺の前には無に等しい!
「っと、来やがったな!」
逃げていく魔物たちから一歩飛び退くと、目の前に黒い翼をはためかせた魔王が舞い降りた。
その顔は怒りのあまりか、おぞましいものになってる。お似合いの顔だ。
「おのれ、勇者……よくも我が配下を蹴散らしてくれたな」
「違うぜ? 邪魔だから掃除しただけだ」
「貴様は……! やはり我が手にて葬らねばならぬようだ!」
闇の魔力とかいうのを纏った大剣を引き抜き、俺へ向けて構えている。
面白い、翼で飛びながらだとか、そういう面倒な戦い方はしないようだ。
「なら俺も正面から受けてやるよ。同じく剣一本でな」
勇者と魔王が剣を手に向かい合う。
退屈な戦いも、ようやく面白くなってきた。
「行くぜぇ!」
俺の雄叫びと共に、魔王との斬り合いが始まる。
互いの全力をかけ、一撃一撃に魂を込める。
ようやく全力で戦える相手だ。楽しくなってきたぞ!
「魔王よぉ? 俺を満足させてみろ!!」
勇者になって初めてだ。ここまで高揚させてくれるのは初めてだ!
「いつまでも戦っていてぇなぁ!!」
「グッ……」
「テメェは違うようだがな!!」
押していた。どうやら一歩、俺が上をいっているようだ。
「足掻いてみろよ? もっとやって見せろぉ!! じゃねぇとぶっ倒すぞ!!」
魔王は斬撃を剣で受けながら、ジリジリと後退していく。
このまま押し込めば、俺の勝ちだ。
「テメェを倒したら、アインヘルムなんか捨てて別の大陸に行くとするか。もっと強い奴と戦うためになぁ!」
魔王なんて呼ばれているが、所詮は他より強い魔物というだけ。
世界中探せば、もっと強い奴もいるだろう。
見つけ、倒し、上へ上り詰める。
上へ、上へ、上へ!!
俺は勇者から、いつかはこの世の覇者になってやる!!
「……勇者よ、この勝負余裕だと考えているようだが……」
斬り合いながら、魔王がなにか言い始めた。
耳を貸してやると、その顔がニヤリと笑った。
「我ばかり見て、足元が疎かになっておるぞ?」
何のことだかわからなかったが、急に足が何かに引っかかった。
「なにっ!?」
体制は崩れ、正面はがら空きになる。そこへ、魔王が剣を振り上げた。
「クハハハハ! 死ねぃ!!」
”ヘタ”を踏んだのか? この俺がこんなところで、転ぶようなことをしでかしたのか!?
「てんめぇぇぇぇぇ!!! 俺が負けるってのかぁ!!!」
振り下ろされる刃に怒鳴りながらも、なんとか剣で防ごうとする。
ギリギリで間に合わせたが、力が籠り切る前に、俺の剣は弾かれた。
もう一度振り上げられた一撃は、止まることなく俺の胸元を切り裂く――
ことは、なかった。
「ヒ……ヒヒヒ……助けに来たぜ? 勇者様?」
俺の目の前で、ライアが庇うように斬撃を受けていた。
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