第10話 決別した友とのぶつかり合い
プルプルと震えながら、シエルは俺を見据えた。
「どうしちゃったの……? その二人を殺す気だったの……?」
「……そうだと言ったら?」
言ってやると、あの平原の時と同じように「おかしいよ!」と叫ぶ。
「二人とも仲間で、国のために戦っている人間なんだよ? それを殺すっていうの!?」
「おっと、正確には違うぞ。俺は追放されたから仲間じゃないし、今の俺は魔物になりかけている」
「魔物に……?」
シエルとて、考えてみれば俺を否定した相手だ。
長い付き合いだったが、どうしてもわだかまりはある。
「思えば、あの平原でお前に突き飛ばされてなきゃ、どっかで踏みとどまってたかもしれない」
「ッ!」
「お前はいつだって、そうだった。お前は出会ってからずっと、俺のストッパーだったよ」
ガキの頃の生きるための盗みも、大人になっていく中での喧嘩の日々も、シエルがいたから「ゲス野郎」にはならなかった。
今回も、いてくれたら傭兵を売るようなことを止めてくれただろう。
それが結果として魔王に従う事態を招かなかったかもしれない。
「お前がいなくなって、俺の人生は一人ぼっちだったからな……好きなようにするって決めたんだ」
「……じゃあ私がいないから、こんなことするの? なら、私は――」
「ちょっと待て」
嫌な予感がした。もしかするとシエルは、俺を止めるために、今になって味方するのかもしれない。
それはダメだ。シエルに、こんな所まで堕ちてきてほしくない。
たとえ、俺がこの道へ誘っていたとしても、来てほしくないのだ。
だったら、先に手を打つ。
「こんなことって――こういうことか?」
指を鳴らすと、手下が戻ってくる。
二十体の魔物を前に、レオンとエレナは情けなく震えている。
シエルも周りを見渡しながら声を荒げた。
「話し合う気はないの!?」
「その選択肢は、俺がとっくの昔に提示しただろ」
「でも……こんなのって……」
「怖いなら逃げろよ――それか、アーサーのとこにでも助けてもらいに行け」
行け。行ってくれ。そっちの方が都合がいい。
そっちの方が、これ以上俺もやりたくないことをしなくて済む。
しかし、シエルは瞳に決意を宿した。
ヒーラー用の杖を構え、レオンとエレナを守るように立ちふさがる。
「やるんなら……私だって、戦う」
「――そうかよ」
ヒーラーが一人でどう戦うんだか。
昔から夢見がちな奴だったが、変わっていないようだ。
しかし――
「強くなったな」
「えっ?」
泣いてばかりのシエルはどこに行った。
俺と離れてから、シエルもシエルで色々あったのだろうか。
なんにせよ、やることは変わらない。
最初から、変えるつもりはない。
レオンとエレナには報いを受けてもらう――死んでもらう。
魔物たちに襲わせるよう指示を出した。
襲い掛かる魔物たちだが、身構えるシエルは無視している。
代わりに、レオンとエレナへは容赦なく襲い掛かった。
「なんで!? 私が戦うから、この二人には手を出さないで! このっ……無視しないで!!」
言葉が通じるはずもないのに、シエルは魔物たちへ叫んでいる。
だが、どの魔物もシエルは無視だ。
当然だ。元からシエルは、見つけても襲わせないように命令してある。
余程の事がない限り、この命令は破られない。
そう、余程の事が……
「助けてシエル! 俺を助けて!」
「嫌! 死にたくない! 嫌ぁ!!」
「死なせないよ!! ライアの手だって、もう汚させない!!」
おいやめろ。二人を襲ってる魔物を無理やりどけてまで回復魔法なんか使うな。
どけるために、レオンの投げ捨てたボロボロの剣なんか拾うな。ヘタに使うな。
お前は、いつも通り泣いて逃げてくれたらいいんだよ。
もう充分頑張ったし、強さも見せたろ?
それ以上はやめろ。剣で魔物を刺したりするな。刺激するな。
そいつらは、まともに言葉が通じる相手じゃないんだ。
俺だって、簡単な命令しか出せないんだ。
「おい、シエル……おい……おい!!」
魔物たちをかき分け、殴られ、刺され、傷ついていくレオンとエレナの壁になった。
壁になりながら、回復魔法をかけつつ剣を振り回している。
その一撃が、魔物になった傭兵に命中した。
ギョロッと瞳を剥いて、シエルを捉えている。
手に持っている斧をシエルへ振りかぶると、容赦なく振り下ろす。
咄嗟に剣を盾にするが、弾かれてしまう。
そのまま追撃が来る瞬間、我慢の限界だった。
「バーグラライズ!!」
斧を盗んだ。魔物もレオンもエレナも、シエルも困惑している。
「命令変更だ! お前らは騎士たちの相手に戻れ!」
そんな中怒鳴ると、魔物たちは動揺しつつこちらへ向かってきている騎士たちへ襲い掛かる。
未だ困惑する三人へ、俺は告げた。
「許したわけじゃないし、レオンとエレナには何も返してやらないからな。アーサーにでも泣きついてろ」
言うと、悲鳴を上げながら二人は最前線にいるだろうアーサーの元へ脱兎のごとく逃げ出した。
大方、俺が敵に回ったことを土産にでもするのだろう。
あのアーサーが、そんなことで捨てた奴を拾いなおすとは思えない。
むしろ小賢しいことを嫌うアーサーは、更に突き放すだろう。
つくづく情けないことだ。
とはいえ、だ。この場には、シエルと俺だけが残った。
数舜の沈黙の後、大きなため息と一緒に口にした。
「わかったよ。計画にはなかったが、話し合いってやつをしよう」
これがどう出るか。ここまで計画通りだっただけに、未知数だ。
シエルも息を整えると、改めて俺を見据えた。
「今度はしっかり聞くよ。絶対最後まで聞く――もう突き飛ばしたり、しない」
「そいつはよかった。なら、どっから話すかな」
魔王軍とアインヘルムが戦っている真っ最中だというのに、何をやっているんだか。
全て放り投げて、シエルと向き合うことにした。
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