第1話 収益化記念
「あの、佳奈?」
「何?」
例によって、俺は今女装中である。
誕生日プレゼントにと佳奈が買ってくれたゴスロリファッションだ。
「なんで俺の上に座ってらっしゃるので?」
「別に普通よ」
「…………?」
そしてここは、佳奈の部屋だ。プレゼントの開封作業を終え、いつものように佳奈の部屋に泊まることになっていた。
今回多かったのは、化粧品。特に、女性視聴者から大量に送りつけられてきた。
多分、化粧をしていないことをぽろっと配信で言ってしまったからだろう。
「ほら、事務所でも自称妹をよく膝に乗せてるじゃない。同じようなものよ」
「自称妹って……って言うかじゃあなんだ?佳奈はお姉ちゃんってことか?」
「お姉ちゃん……」
佳奈がくるりと体ごと振り向く。普通に落ちそうになったので支えてやった。もう慣れたものである。
……って言うか、顔が近い。
「お姉ちゃんって呼んでみて?」
「えっと……佳奈お姉ちゃん?」
「……くっ」
佳奈が胸を押さえる仕草をする。その姿も絵になっていた。
「今度から、私のことお姉ちゃんって呼んで?」
「やだ」
同級生の友人を、お姉ちゃん呼びするのは……もし、学校で呼んでしまった場合、かなり面倒なことになる。
「え〜……これは、催眠調教するしかないかな……」
何か不穏なワードが聞こえたが、気にしないことにする。
「それで、最近の愛のSNSはどんな感じなんだ?」
「んーー」
佳奈がくるりとまた振り向き、こちらに背中を預けてくる。
そしてそばに置いてあったスマホを手に取って、指紋認証を行う。
「んー、まあぼちぼちといった感じかな。そういえば、Tubeの収益化がそろそろ通るよ」
「本当か?」
「うん。これでついにスパチャ解禁だね」
Tubeは収益化……つまり、動画投稿によって収入を得るためにはいくつかの条件が設けられている。
大まかには、チャンネルに投稿された動画の総再生回数、そしてチャンネル登録者数が重視される。
そして、それによって解禁されるのがスーパーチャット、通称スパチャだ。
スーパーチャットとは、配信者(とあと手数料としてTubeに)お金を払うことで、自分のチャットを一定時間強調できる機能のことだ。
え、それだけ?と思われるかもしれないが……多くの同時視聴者を抱える配信では、チャットが滝のように流れていってしまう。
そんな中で、自分のコメントを読み上げてもらうのは、不可能に近い。
そこで、この機能が大活躍するのだ。
「大体のVtuberは、収益化記念配信をするらしいけど……愛もする?」
「やった方がいいと思うか?」
「まあね。最初にスパチャが飛び交うのは、恒例みたいなものらしいし」
俺はしばらく考えてから、
「うーん……スパチャは普段はオフにしないか?」
といった。
「愛がそうしたいならそうするけど……なんで?」
「特別な日にだけスパチャを解禁した方がいいと思うんだ。その方が結果的に収益も上がると思う」
「そっか。収益化配信もしない?」
「ああ。世界観を壊すのも勿体無いし」
「そうだね。じゃあ、そうしよっか」
佳奈はそう言うと、スマホを傍に投げ捨ててくるりとこちらを向く。
「愛」
「どうした?」
佳奈はぎゅーっとこちらを抱きしめてくる。
「何があろうと、私は愛の味方だよ。たとえ、世界が敵に回ってもね」
「……俺も……何があっても、佳奈の味方だし、何かあれば佳奈の力になりたいと思ってる」
俺は抱きしめ返す。佳奈は「うん」と言って抱きしめる力を強くしてきた。
––––その日、ネットに悪意がばら撒かれ、俺を含むVtuberのSNSが軒並み炎上していたことを、その時の俺はまだ知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます