第8話 エレベーターピッチ

「……あなたもオーディション参加者ですか? 同い年くらいですし」


 メイメイが様子を伺うように覗き込んできていた。


 近っ!


 ボクの心臓は鼓動を再開し、全身が熱くなるのを感じる。


「お、オーディション?」


「違いましたか。てっきりアイドル志望のライバルの方かと思って緊張しちゃいました」


 ちょっと顔を赤くして笑うメイメイ。かわいい。


「えっと、ボボボ、ボクはスタッフのほうというか、マネージャー……になった……みたいです」


 緊張で、口の中がパサパサ。


「えー、マネージャーさん! 若そうなのに! あ、ごめんなさい」


 メイメイがちょこんとおじぎする。かわいい。


「えっといや、その、ボクはメイメ……あなたと同じ18で……」


「私は16歳ですよ〜。マネージャーさんは年上なんですね! お若く見えます!」


 メイメイは手で口元を隠し、驚いた様子を見せる。


「あれ? 16? あーそうか、オーディション!」


 オーディションの時のメイメイなら、2年前なんだ。

 たしかにデビュー当時のメイメイだ。まだちょっと幼さが残るメイメイかわいい。


「そうなんですよ〜。オーディションは1ヶ月後なのに、先に寮に入れてもらえてレッスンまで受けさせてもらえて。先週からお世話になってます!」


「あ、そうなんだ。ボクは今日来たばかりだから、先輩だね」


「先輩!エヘヘ……。先輩の私に何でも聞いてください!」


 仰け反って胸をポンポンと軽く叩く。

 うわ〜先輩風ピューピューだー!かわいい!


「あ、ごめんなさい。私、調子に乗っちゃって……年上のマネージャーさんなのについ」


 今度は背筋が丸くなり、シュンと小さくなる。かわいいなあ。


「勘違い勘違い。2年前だから、ボクも16だよ」

 

「2年前?」


「なんでもない! 同い年だから、その……仲良くしてくださいっ!」

 

 気づくと、無意識のうちに右手を差し出していた。


 まずい。

 握手会がDNAに刻まれすぎだろう……。


「変なマネージャーさん。こちらこそよろしくお願いします」


 メイメイは笑いながらボクの手を取り、握手で答えてくれた。


 尊い……CD100枚ください。



「私、夏目早月です。アイドル志望です。歌もダンスも大好きだけどぜんぜんうまくなくて……でもオーディションまでに精一杯がんばりますのでよろしくお願いします!」


「はい、合格!」


「え、えー!私合格なんですか!?」


 目がまん丸になっている。


「ごめんごめん。ボクが審査員だったら、絶対に合格にするよ!」


 メイメイはまじめで冗談が通じない天然キャラなところがある。そこがまたかわいい!


「オーディション合格かと思っちゃいました。がんばります!」


 こぶしを握って気合を入れている。


「メイメイは宇宙一かわいいから大丈夫だよ」


 ボクは笑いながら言う。今度はジョークじゃなくて99割本音だけど。


「宇宙一だなんてほめすぎですよー。……メイメイ?」


「あ、いや、その……」


 急に距離詰めすぎた……ボクキモイね。


「メイメイ! その響きいいですね。すごくしっくりくる! これからもメイメイって呼んでください!」


 メイメイが喜んでいる。うれしい。


「マネージャーさん、お名前を聞いても?」


「あ、七瀬楓です。よろしくお願いします」


「七瀬さん。楓さん。……ナセナセ? カエカエ?」


 ボクの愛称を考え出したようだ。うーんセンス!


「好きに呼んでくれてもいいけど、ボクはカエくんがいい……かな」


 いつもみたいに。


「カエくん! かわいい響きですね!」


「ありがとう。また呼んでくれてうれしいよ」


 最初の握手会でメイメイが名付けてくれたんだよ。



 そうこうしているうちに、エレベーターが2階に着き、扉が開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る