第16話 アゾミラ山
アゾミラ山。
俺たちが住む街、アルドニアから歩きで二日ほど北上したところにある小さな山だ。
ふもとには幾つかの村があり、彼らはアゾミラ山から得られる資源を得ることで暮らしていた。
そんなアゾミラ山の中腹に大型のワイバーンが住み着いたのは、一ヶ月ほど前のことだという。村人は、山に入ることができなくなった。
俺たちは今、アゾミラ山のふもとに居る。
村々から冒険者ギルドに届けられた『ワイバーン討伐依頼』を受けての行軍だ。メンバーは、俺、チルディ、カーミラ、さらに雄ゴブリンが二匹の計五名であった。
「出る前も言ったが、私はワイバーンと戦った経験がない。ソルダム頼りだ、任せたぞリーダー」
「リーダー! とーさまはリーダー!」
「そうだ俺が今回はリーダーだ。俺の言うことは絶対守れよ、チルディ?」
「おまかせください!」
本当かなぁ。俺は心配だ、チルディは案外熱くなる性分だから。
カーミラとの戦いでもすっかり熱くなって本気を出してしまっている。俺はそれだけはするなと厳しく注意した。
山は近隣住民にとっての生活基盤だ。チルディが本気を出せば環境を破壊してしまい、住民たちが路頭に迷うことになる。
「わかってます! ちーちゃん、本気光線は出しません!」
「そこだけはホントに頼むぞ? ふもとの村の人らが首をくくることになり兼ねないからな!?」
「はい!」
心配だ。あー心配だ。
俺たちがそんなことを喋っていると、後ろを歩いてきているゴブリン二匹が武器を掲げてみせた。
「ダイ……ジョウブ! コドモ、ダイジ。オレタチが、チーチャン、マモル!」
「勇ましい話だ、ありがたいことだよ」
これは皮肉で言ったわけじゃあない。
その心意気が嬉しい。
彼らはチルディの強さをまだ知らないのだ、普通の子供と思っている。
チルディが一緒にくることを、カタコトで勇めようとしてくれたくらいだ。
このゴブリンたちは、非常に家族想いだった。自分たちだけでなく、他人の家族のことまで心配するほど共感性が高い。
俺は、このパーティーの面々を守りたいと思った。
一人の犠牲もなく、ミッションを遂行したい。
ギルド長にうまく誘導されて受けることになってしまったことに、未だわだかまりはあるが、やる以上は最高の結果に結びつけなければなるまい。
「……ワイ、バーン、ソンナ、ツヨイノ、カ?」
おっと、不安な顔を見せてしまっていたか?
ゴブリンたちが俺の顔を覗き込みながら問うてくる。
だがここは、正確な情報を伝えておかねばなるまい。
「そうだな……。これも出発前に言ったが、強い」
ワイバーンはドラゴンの亜種、と言われている。
簡単に言うならば、空を飛び火を吐く巨大なトカゲだ。
ドラゴンとの大きな違いは知性の有無。知能の高いドラゴンと違い、ワイバーンの知能は爬虫類並だ。
とはいえ『空を飛ぶ』という特性が厄介で、討伐が難しい。
それが複数体ともなれば、完全にS級パーティー案件だ。
勝てる勝てない、の話で言えば、チルディとカーミラが居る時点で勝てるだろうと、正直俺は思っている。
むしろチルディのやりすぎが怖い。
ただ、危険は危険だ。
チルディたちに万が一のことがないとも限らないし、なにより俺やゴブリンたちの身は、普通に危ない。本当ならゴブリンたちを連れてきたくはなかったくらいだ、今からでも、『ここで待っていてもらう』という選択肢すらある。
だがそれを提案したところで、彼らは断るだろう。
彼らには彼らの誇りがあるのだ。
「ソウカ、ワイバーン、トブ。テゴワイ」
言いながら、ゴブリンたちは弓の調子を見直していた。
「いいかい? 俺たちはあくまでカーミラたちの援護だ。俺の後ろにいることを忘れないでくれ」
「ワカッテル」
出発前の最終確認も終わった。
そろそろ出発の頃合いだ。
「じゃあ行くぞ、第一の目標地点は山の中腹。木々が開けた場にワイバーンが集まっているとの話だ」
「りょーかいデス!」
チルディが冒険者式の敬礼で応える。
俺たちは山を登り始めた。
◇◆◇◆
数時間を掛けて山道を登り、中腹へと着く。
ふもとで村人に確認した通り、木々の開けた場があり、そこにワイバーンが休んでいた。
その数、現在確認できるもので二匹。
俺は茂みの中で足を止め、後ろにいる皆へと振り返った。
「確認されているだけで三匹以上いるのは間違いない。なるべくなら一度に相手したくないところ、今なら二匹で済む。強襲しようと思うがどうだ?」
「良いのではないか? 先手を打てれば一匹に多大なダメージを与えることも可能だ、そうなると実質は一匹、だいぶ楽に戦える」
カーミラがスムーズな返事をくれた。
俺は頷く。
「よし、カーミラはチルディとタイミングを合わせて一匹を無力化してくれ。そちらの処理が終わるまで、もう一匹は俺たちが引き付ける」
「了解した。ちーちゃん、一緒にきてくれ」
「わかりました!」
二人が移動する。
茂みを通って、広場の向こう側へと移動していくつもりだろう。そうすると、彼女らが先制したあとに俺たちが一匹に対してバックアタックができる。
「チーチャン、カーミラ、ト、イッショニ、コウゲキ、スルノカ?」
俺が考え事をしていると、ゴブリンの一人が問いかけてきた。
「そうだ」と答える俺。彼らがチルディの光線ブレスを見たら、さぞや驚くことだろう。
「カーミラたちの第一射が放たれたら、俺たちも茂みから飛び出すぞ。ダメージを受けていない方の個体へと矢を放ってくれ。気を逸らさせる」
「ワカッタ、オレタチ、ユミ、カマエル」
ゴブリンたちは互いの顔を見合わせ、頷きあった。
俺も片手撃ちの小型クロスボウを点検しつつ、左手の盾を持ちなおす。
今回は俺も久しぶりにフル装備だ。
冒険者時代の鎧と盾を久しぶりに持ち出した。
防御の魔法の力を持った装備だ、これはマナのない俺が持っても最低限の効果は発揮してくれる。頼りにしてるぞ、相棒。
横たわって休んでいるワイバーンの方へを目を向けなおした。
ここからの奴らまでの距離は、およそ30メートルほど。
茂みから出たら矢を一発撃って、その後に接近する。
頭の中で、予定を何回も反芻してしまっていた。
いかんな。久しぶりの討伐ミッションの為だろうか、どうにも考えすぎる。
もっと自然にしておけないと、咄嗟の事態に反応できない。
俺は今さらながら大きく深呼吸をした。
すると俺を真似たのだろうか、ゴブリンたちも大きな深呼吸をした。
「コレ、イイナ、キモチ、オチツク」
「そうだな。気を落ち着かせていこう。大丈夫だ、俺たちはあくまでサポート、無理をしないようにな」
「ムリ、シナイ。チーチャン、アブナイトキ、イガイハ、オレタチ、ムリシナイ」
「チルディは多少危なくなっても平気だ、とにかく無理しないでくれ」
「ソレハ、デキナイ。コドモ、ダイジ」
ゴブリンは続けた。
「オレ、コドモノタメ、イチゾク、ウラギッタ。ダカラ、ソルダム、ガ、コドモダイジニ、オモウキモチ、ワカル。オレタチ、コドモノ、タメ、ムリスル」
この『オレタチ』は、きっと俺のことも含んでの言葉なのだろう。
確かに俺も、チルディの為になら幾らでも無理をするに違いない。親とは、そういう生き物なのだ。
人間であろうとゴブリンであろうと、それはどうやら変わらないようだった。
「……わかった。でも死ぬような真似は絶対しないでくれよ? チルディが悲しむ」
「コドモ、カナシマセル、ヨクナイ。ワカッタ」
ゴブリンたちは頷いたようだ。
俺も広場の様子を見続けながら、頷いた。と、そのとき。
向こう側の茂みから、カーミラとチルディが姿を現した。
走るでもなく、堂々と歩いての登場だ。
ワイバーンたちはまだ二人に気づいていない。カーミラが構えた、チルディが口を開けた。光と闇の光線が、二人から発せられた。
「よし、出るぞ!」
俺たちは茂みから飛び出したのだった。
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