行動開始

夜中に揺れるたび、誰かが素早く反応してストーブを消す。

揺れが落ち着いたら再び点火する。

そういった事を繰り返し、朝を向かえた。


幸いにも物販エリアの商品があったため、10数人近くの食料は賄えた。

2階のトイレは押し寄せた水をバケツで補充し、使用する事が出来た。


朝日が差し込み、眼前に広がる石巻駅前を見て愕然とした。


一面が水。バスプールが文字通り巨大なプールになっていた。

隣接する歩道橋を駆け上がる。車はギリギリ水没しておらず、携帯も充電できた。

駅事務所の二階からは駅長が顔を出している。


「駅長、スンマセン!車登らせましたぁ!」

「このアングルで車見るとは思わなかったが、今は仕方ない!気にすんな!」

「ありがとうございまーす!」


物音がしない早朝の駅前で、大きな声で会話する。

ホームは水没、身動きが取れない状況らしい。


歩道橋を登り切り、線路上を通る部分から駅裏を見渡す。

こちらも水没、胸まで水に浸かって移動している人を見かけた。

駅前周辺と駅裏エリアは他より低いからな。仕方ない。

となると、駅裏への移動は無理か。


歩道橋にはここで一晩を明かしたであろう方が何人かいたので、

声を掛けて観光協会へ戻る。


駅前にも胸まで浸かって移動しようとしている人がいたので、

皆で大声で呼び寄せ、避難者数は15人を超えることとなった。


今日やらなければいけない事は・・・現状把握と今後の対応か。

そう思い立ち、駅前から職場方面へ向かった。


日が昇り、惨状が露わになった中を黙々と進む。

石巻駅前から立町商店街を通り、アイトピア通り、そして旧市役所通り。


道路の真ん中には打ち上げられた船、

建物のガラスはみな割れ、横転した車、ねじれた自転車、

崩れかけの飲食店ビルも多く、さらには曲がった電柱、燃え残った・・・


時折パシャパシャと水の音が聞こえる。

人の気配が一切しない、ゴーストタウンと化していた。


言葉が思わず口をついて出る。

「何だこれ、ラクーンシティじゃねぇんだからさぁ・・・・・・・」


裏通りにはどこから流されて来たのか、一頭のポニーがいた。

どうする事も出来ないが、ちょっとばかり和んだから良しとしよう。

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