やっぱり離れられないんだよな。

はぁふ・くうぉうたぁ

発生、避難

2011.3.11(FRI) PM2:46


日常は一変した。


オフィス3階の長机は跳ね上がり、立っていられない。

片膝をついた「ヒーロー着地ポーズ」のまま『窓開けろ!』と指示を出す。


二度の大きな揺れの後、後輩に避難誘導の指示を出す。

自分は管内の安全確認をしつつ、最後尾に。

ガス元栓が開いていたのは気付けて良かった。


ビルを出る際に頭上の安全確認をしつつ外に出てみると、一切の音が消えている。

普段聞こえる筈の喧騒が全く無いのだ。


ふと、幼い頃に散々聞かされた祖母の言葉が頭をよぎった。

“大きい揺れの時は躊躇なくげろ。命根性いのづこんじょきたねくて良い。”



向かいの駐車場で一旦落ち着く、途切れ途切れに防災無線が聞こえてくる。

「大津波警報が発令されました。6メートル以上の津波が・・・・・」


瞬時に鳥肌が立つ。

ヤバイ

ヤバイ

絶対に来るぞコレは

想定を遥かに超えて来るぞ


6メートルなんてもんじゃない。

洒落にならない規模だ。


すぐさま近くの山へ避難を開始する。

店先を片付けていた商店主に「店と命とどっちが大事だよ!」と怒鳴り腕を引く。


石段を駆け上がり、山頂にある神社の境内へ。

既に多くの人が避難してきており、人口密度が凄い事になっていた。



避難してから数十分程だっただろうか。

雪が降り始め、山頂から見える旧北上川は津波が押し寄せ、瓦礫が逆流している。

燃える家屋と共に津波に飲まれ、なんとかベランダにしがみ付いている人がいた。


「助けてーーー!」

声が聞こえるも、申し訳ない。

どうしようも出来ない。なんとか助かってくれ。


その向こうに見える実家周辺は水飛沫と土煙で様子が伺えない。


母親の携帯にかけるも、繋がらない。

頼む、生きててくれ。



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