第77話 天国と地獄

 小さな戦士5歳児たちは文字通りの天国にいた。


 そこは遮る大人も一人もいない、食べ物と遊び場所が至る所に広がる。


 少し空間的に歪みもあるが、水遊びもボール遊びもちょっと危険な場所も全てが自由だ。


 普段ダメダメ言われ続けてストレスを感じていた120名は一気に欲望をむき出しにした。


 食いしん坊は壁面にある山のように積まれたピーナッツやこんにゃくゼリー、大福餅やあべかわもちなどにとびつく。

 銀杏の茹でたものなども山と積んであるようだ、プチトマトなども彩豊かだし、なかなか美味しそうな匂いをさせている。


 電動おもちゃをひたすら壊している幼児もいれば、部屋から飛び出してボール遊びする子、高いところによじ登って窓やベランダから外を眺める子、本当に自由だ。


 フォークやナイフでチャンバラする子、


 池や沼で水遊びや釣りをする子供、


 親水公園や小川まで再現されている。


 ベットやマットも用意されていてお昼寝したかったら自由に寝れる。


 お風呂遊び大好きな子には広い湯船も用意されている、ちょっとした温泉みたいだ、高い場所にあって見晴らしも良い。


 スマホやテレビゲームが無いのが残念だが。

 



 全くここはどうなっているんだ。


 5歳の蒼・平は少し違和感を感じていた。



 ただ、その中で一人だけ本質を感じ取った戦士園児がいた。


 5歳の薫子・エバンスである。


 「遊び場所がたくさんあるのに、お菓子の種類が何か変ね。」


 「銀杏の煮物にプチトマト、ピーナッツ、大福、あべかわもち、こんにゃくゼリー」


 薫子の頭の中でいくつかの事象が繋がりゼロ・ポイントフィールド阿頼耶識にホログラム記録される。


 ホログラムにはその一部と同時に全世界のそれまでの記録の概要も読み出すことができる。


 この部屋にあるものと一致する情報。


 5歳児とは思えない閃きで全体像が見えてくる。



 「エマちゃん!ダメだみんな集めて!」


 「薫子ちゃん、どうしたの?遊ぼうよ。」



「ダメー!」



 最初に異変が起きたのは銀杏の煮物を調子に乗ってバクバク食べていた海斗、空斗兄弟である。


 「おなか、いたいよ、うー」


 激しく嘔吐を始め、二人とも痙攣を起こす。


 程なくして大福餅を喉に詰まらせた、さくらと三月が苦しみ始める。

窒息の症状だ。

 

 温泉の湯船では一人が溺死、もう一人は壁から数十メートル転落、ベッドとマットに挟まって窒息死する者。


小川で遊んでいた5人が鉄砲水に飲み込まれて行方不明に、窓とベランダで椅子に乗って遊んでいた二人も外に転落した。


はしゃぎすぎて部屋から外へボールを追った幼児が走ってきたトラックに跳ねられて即死、


 その他、ピーナツを気管に詰まらせるもの、プチトマトを誤って飲み込み窒息死する者、おもちゃのボタン電池を口に入れて誤飲、食道を火傷したもの、あっという間に90名以上が命を落とした。


 生き残った者も悲鳴をあげ、泣き出す者が続出して天国は一瞬にして地獄と化した。


 遅まきながら5歳の薫子は、政府発表の幼児の死亡原因上位のリスト、というものを頭の中に描いていた。


 幼児の死亡原因

一位 溺死

二位 転落死

三位 窒息死

四位 交通事故死

五位 ボタン電池誤飲による火傷死

六位 銀杏などの大量摂取による中毒死


第一ゲーム生存者25名/120名

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る