第7話

 そんな事を考えていた時の事、一人の魔導士が大急ぎで丘の上まで走ってきた。


「た、たたたたタイヘンだー。何故かどういう訳か援軍が別の所からやって来ているぞー」


「な、なななななんですってー。くっそーこれは予想外だったー」


 おい、もう少し演技しろよ。

 あからさまじゃないか、最初からこうなるのわかってたろ!

 何よこの演出! アクションショーを見に来たわけじゃないんだけど!!


 走って来た魔導士の背後から現れたのは、全長五メートルはある巨大な魔物だった。

 いや、何あれ? なんだあんな子供の落書きみたいな顔してんの?

 見た目が明らかに今までの魔物と毛色が違うんだけど。


「み、見ろー。あれはもしや最近魔導院が開発したと街で噂の、超最新鋭人工魔物ではないかー。いつの間に我々の研究成果が盗まれていたんだー」


「がおー」


 要するに、この作戦に便乗して自分とこの成果もアピールするつもりって事でしょうが。

 何よこの茶番! こんなのに付き合わされてるこっちの身にもなれっての!

 何が、がおーだ。その何の迫力も無い鳴き声は何なのか?


「ぐわあ、やられたー」


「くっそお、歯が立たないー」


 そんな事を言って特に何もせず蹴散らされていくのは、死に晒せだなんだと物騒な暴言を吐いていた連中。

 さっきの威勢はどこへやら、途端に吹き飛ばされ……違うな、わざと転がっている。

 もっと演技の出来る人間は居なかったのだろうか? いくら何でもこれは酷すぎる。


 とはいえだ、実際この人工魔物とやらの実力自体は中々のものらしく、参加者達が挑んでは投げられ、挑んでは投げられていった。

 職員達がわざと転がっていったのは、余計な怪我を負わないってのもあったんだなあ。

 しっかし、こっからどうやって収拾をつけるというのか? 私はお偉いさんの方を見た。すると別の職員と何やら話している様子。気付かれないように近づいて聞いてみようっと。


「上手くいきましたね。こいつの性能が認められれば」


「うむ、来年度の予算を期待できる。参加者諸君には悪いが。まあ、軽く傷を負う程度だし、それに参加賞も貰えるわけだから問題ないだろう」


 何だとこいつら! 最近ロクに研究成果を上げてないからって、予算の為にこんな事してるのか?! 大体、参加賞ってただの駄菓子の詰め合わせじゃん! 

 ふ、ふざけやがってえッ!!


 魔物じゃなくてこいつらをブっ飛ばしてやろうか? そんな事をふつふつと心の中で思っている内に、戦況はどんどん悪くなっていった。

 参加者達は何とか頑張って戦っていたけど、人工魔物はどうも学習能力があるようで、倒される度に動きが良くなっていくのだ。


「ああ、もうダメだー。俺達もう全滅だよー」


「ちくしょー。このまま好き勝手にされてしまうのかー」


 頼むからその大根演技をやめろ職員共。


 仕方ない、いっちょ私がカタを着けてやる。

 そう考え腕を捲く……あ、今ウェイトレスの格好だから捲くる程袖が無いや。

 ならばとスカートを捲り上げようとした時、私の前に誰かが現れた。


「ご、ご無事ですか?! コルニーさん!」


「えと、あなたは? ああ! ミエラ君!?」

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