百合漫画を買いに行ったら陽キャと仲良くなっていく話

たるたるたーる

〜プロローグ〜

現在、私こと河合睦月〈かわい むつき〉はカラオケルームにて、すごく緊張していた。


陰キャであり、人と関わるのが苦手な私。


友達はおらず、一人でカラオケに来るなんてありえない私には縁のない場所だったからである。


だけど、それ以上にいま目の前にいる人物が原因でもあった。


私と向かい合わせに座りムスッとしている女性。


彼女の名前は百瀬愛華〈ももせ あいか〉さん。


同じ女子校に通い、同じ2年生であり、クラスメイトでもある彼女。


違うのは陰キャである私とは正反対の陽キャグループの子だった。


決して私なんかとは関わり合うことはないはずだった彼女。


では、なぜそんな彼女とカラオケルームにいるのかというと…。



今日は私が愛読している百合漫画の作者、今瀬もも先生の新刊の発売日だった。


学校のHRが終わると同時に私はすぐに駅前の書店へ向かう。


近くの書店はここにしかなく。


百合漫画であった為、入荷数も少なく。


息を切らし、足が遅いながらも駆け足でたどり着いた私はちょうど最後の一冊を見つけた。


(よ、よかったぁ…。まだあったぁ…。)


息を整えながら、まだ残っていたことに安堵する私。


最後の一冊を手に取ろうとした時だった。


本の上で私の手に重なる、別の手が。


思わず、えっ!?と声に出す私。


それと同時に、あっ!という声がして。


そちらを向くと、そこには帽子を深々と被りサングラスとマスクで顔を隠している人が立っていた。


「す、すみまっ…いたっ…!」


突然のことで焦った私は舌を少し噛んでしまった。


「だ、大丈夫っ!?」


それを心配してくれる怪しい格好の人。


「ら、らいひょうふれふ…。」


涙目になりながら、大丈夫ですと伝えようとするも変な言葉になってしまう。


すると、ちょっと見せて!と顔を近づけ舌先をジッと見つめる怪しい人。


思わず顔を逸らそうとするもグッと顔を固定されて動かせず目線だけずらし、恥ずかしさで痛みなんて忘れてしまった私はドキドキしつつなんとか耐えていると。


「もー!よく見えない!サングラス邪魔!マスク苦しい!帽子暑い!」


と、怪しいセットを急いで外し、女性はまた私の舌先をジッと見つめると「うん!とりあえず血は出てないね!よかったー!」と安堵するのだけど。


やがて「な、なななななっ…!」と訳の分からない言葉を口にする女性。


私は気になり目線を少しだけ戻すと、そこにはクラスメイトの陽キャである百瀬さんの震える姿があった。


「も、百瀬さん…?」


同じクラスになり一言すら話したことのなく初めて名前を小さく呼ぶと、百瀬さんは私を指差し。


「なんであんたがここにいるのよー!!!」


と、叫ぶのであった。


その後、百瀬さんは私の腕を掴むと、店の外へと連れ出そうとする。


が、その前に私の目的の本を掴ませるとレジで購入するのを確認し、また腕を掴まれると引っ張られながら一緒に歩くことになってしまった。


そして、現在。


訳がわからず百瀬さんに引っ張られ続けた私は、気づくとカラオケルームにいたのである。

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