第13話
〜〜キアーラ視点〜〜
私がギルドマスターを務める聖女ギルド、【女神の光輝】。今や閑古鳥が鳴いていた。
数々の失敗を経て、まったく依頼人が来なくなったのだ。
「ゆ、由々しき事態ね」
これもどれも、全部、地味子のせいだわ!
と、復讐心を燃やしていると、チャンスが到来した。
王都に食糧難がやって来たのだ。
寒波の影響で食物が不足しているのである。
「ふふふ。やっと来たわ。この時が」
「キアーラさま。コンサートの会場は抑えました!」
「準備万端ね!」
「はい♪」
ふふふ。
癒してやるわよ。疲れ切った都民の心をね!
コンサート当日。
会場には3千人を超える観客が集まった。
さて、他所行きの可愛い声を出すか。
「みなさーーん。今日は女神聖歌隊の初コンサートに集まってくれてありがとうございまーーす♡」
会場は大盛り上がり。
ふふふ。良い感じじゃない。
ここで私の美声を披露して、みんなを虜にしてやるわ。
飢饉の苦しみなんて私の美声で吹っ飛ばしてやるんだから。
「キアーラさま。グッズ販売は好調でございます」
「計画通りね」
「ええ! 握手券は飛ぶように売れましたよ!」
やったわ!
握手するだけでお金が入るなんて最高じゃない。
開始前のグッズ販売も調子がいいようだし大成功だわ。
ふふふ。この会場にはグッズコーナーが随所に設置されているのよ。
コンサートチケットの売り上げにプラスしてグッズの売り上げまで入る計算!
やっぱり私って商才があるわね!
歌ってよし、見た目よし、の完璧聖女よ!
こんなこと地味子にできるわけないわよね!
圧倒的な能力差というものを見せつけてやるわ。
これが私の実力よ。
さぁ、私の歌を聴きなさい!!
「恋。それは神の囁き。あ゙ーーあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
ふふふ。
私の美声に骨抜きになっちゃいなさい。
「愛じのぉ。女神の光輝ぃ〜〜♪」
決まった!!
どう!?
もう骨抜きでしょ!?
「金返せーー!」
「音痴ーー!!」
「罰ゲームかよ!!」
「歌下手すぎだろ!!」
「ゲロ吐きそう!!」
ええええええええ!?
なんですってぇえええ!?
「お黙りなさい!! って、痛ッ! ちょ、物を投げないでよ!!」
会場は大混乱。飛び交う野次。飛び交うゴミ。
観客は怒って全員が帰ってしまった。
「そ、そんなぁ……。あと30曲もあったのに……。なんならアンコールの曲も3曲用意したのにぃ……」
ま、まぁ、チャレンジに失敗はつきものか。
クヨクヨしていても始まらないわね。
「ネルミ。グッズの売り上げはどうだったのかしら?」
「マイナスです」
「マイナス!?」
「返品ラッシュになりまして、その対応に追われているのです」
こんなことってあるぅ!?
それならやらない方がマシだったじゃない!!
ぐぬぅぅ! これもそれも全部、地味子のせいだわぁああ!!
地味子めぇえええええ!!
そんな私の横で、私以上にキレているのがアーシャだった。
彼女も女神聖歌隊の一員なのである。
「愚民んんんん!! キアーラの音痴に罵倒するのはいいわよ! でも
ちょ、さりげなく私を貶してるじゃないの!!
「許さないいいいいいいいいい!!」
いやいや。
怒りすぎでしょ!
その時。
アーシャの声は魔力を帯びて王都の空へと広がった。
やがて、その力は黒い霧となって都民の体に付着する。
「な、なんだこれ? うわぁああ!! か、体がぁああ!!」
「私の体がぁああ!!」
「ドロドロに皮膚が溶けるぅうう!!」
ええええええ!?
「ちょっとぉお! アーシャ、何やってるのよぉおお!?」
「へ? 何が起こったの?」
「あれは、あんたの力でしょ!」
「……私が?」
「あんたがキレて力を暴走させたのよぉおおお!!」
「うう! 無意識でやっちゃったぁあ!!」
人々は暴徒と化す。
まるでアンデッドモンスターのように周囲の人を襲い始めた。
あああああああ!
どうしたらいいのぉおおおお!?
☆☆☆
〜〜イルエマ視点〜〜
王都で事件が起きました。
アンデットのようになった都民が人を襲っているというのです。
エジィナちゃんは顕微鏡を覗く。
変貌した人から皮膚を採取して調べているんですね。
「魔憎病だ」
「なんですか、それ?」
「心を病んだ人間が大量の魔力を吸って変貌する病さ。力は増すが自制が効かなくなって周囲の物を破壊し始める」
「厄介ですね。治療方法はあるのですか?」
「
「ああ! それなら簡単です!」
「心にね」
心?
「魔憎病は脳の病でもあるんだ。だから、耳の中から
「それは手間ですね。耳の穴に向けて
「うん。数十万人が発症していると言われているからね。
空気中……ですか……。
あ!
「声、とかどうでしょうか?」
「なるほど! その方法があったか! 声は振動だ! 声に
ムギュウ!
うわ! 柔らかい!
「イルエマ。声。可愛い。声に。
「んもう。そんなことを言ってくれるのはバーバダさんだけですよ!」
エジィナちゃんは腕を組む。
「ふぅむ。イルエマくんの声に
確かにそうなのかも。
「じゃあ、私ががんばって叫べばいいんですね!」
「それじゃあ逆効果だよ。叫び声は不快だからね。病人の心が更に病んでしまうんだ。もっと心地の良い方法があればいいのだけれど……」
「では、歌なんてどうでしょうか? 心が和むと思いますよ」
「それだ!」
「ええ。じゃあ誰が歌います?」
「君だよ!」
はい?
「君が歌うんだよ! イルエマ!!」
「ええええええええええええええ!?」
いやいや。
ないない。
「地味な私が人前で歌うなんてありえないですよ」
「そんなことないけどね。嬢ちゃんの声は透き通っていて可愛いよ」
「レ、レギさんまでぇえ」
「たまにさ。嬢ちゃんが機嫌のいい時に歌ってるだろ? その時はみんなで耳を澄ませて聞いていたんだ。綺麗な歌声だと思っていたのさ」
「ええええ! みんなで聞いていたんですかぁ〜〜!? 恥ずかしい……」
と、とにかく。
「私が人前で歌うなんてありえないですよ。私は
ポンと手を叩いたのはナナハさんです。
「イルエマが歌いなさい! あなたは歌が上手い! これは大きなビジネスになるわ!」
「ええええ!?」
「考えてもみなさい。今はあなたは時の人! グッズにプレミアがつくほどの人気者なのよ!」
「で、ですがぁ〜〜」
「そんなあなたが歌えば、この狸の
えええええ!?
「俺。異国の楽器。ドラム。できる」
ちょ、ええ!?
「僕もギターという異国の楽器ができるんだ」
エジィナちゃんまで!?
「
ちょちょちょーー!
「みなさん、楽器が弾けたんですか?」
「「「 うん 」」」
ズゥーーーーーーーーーーン……。
じゃあ、必然的に楽器が弾けない私だけが浮くじゃないですかぁ……。
「諦めなさい。まぁ、みんながあなたをサポートするから、そこは安心しなさいよ」
「はぁ……。じゃあ、何を歌いましょうか? しっとりとしたバラードですよね? 童謡とか国家でしょうか?」
エジィナちゃんは呆れた。
「あーーダメダメ。そんなのは古いよ。これからの歌は新しくなくちゃ。発明と同じさ」
「じゃあ、何を歌うんです?」
「うん。軽快なリズムでさ。ダンスもつけてみんなで踊ろうよ!」
「お、踊るぅう!? い、一体どんなジャンルなんですか??」
「ポップさ」
どうやら異国の歌のようです。
……うう、なんだかよくわからない歌を歌うはめになってしまいました。
「あ! こんなこともあろうかと衣装を作っておいたの」
はい?
「ナナハさん? こんなことってなんですか?」
「あはは。詳しいことはいいじゃない。趣味よ趣味! 家事全般は私の趣味だからね。裁縫もやるのよ」
はぁ……。
それで、この服ですか……。
リボンにフリルの付いた衣装。ニーハイソックスまでありますね。
それにしても、
「これ……ミニスカート過ぎませんか? 太ももが出過ぎのような……」
「絶対にイルエマには似合うと思うの!」
「はい?」
「良い。イルエマ。似合う♡」
「僕も似合うと思うな」
「
いやいやいや!
「こんなフワフワのミニスカートを着て踊って歌うんですかぁあ?」
みんなは目を輝かせながら、うんうん、と力強く頷きます。
「イルエマ。勘違いしないで欲しいんだけど。これは露出じゃないのよ。お洒落なの! 可愛いは正義なのよ!」
いや、だからそんなに目をキラキラされてもですねぇ。
「私は地味な女の子なのですよ。それに
「イルエマ! 地味な女の子でも可愛くしていいのよ!」
し、しかし、10万人以上の人前で歌うのですよ?
ああ、不安しかありません。
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