第4話

 私はナナハさんの馬車に乗っています。

 彼女がお昼をご馳走してくれるらしいのです。ビフテキということみたい……。少し期待してます。

 それにしても、すごいお胸だな。

 馬車の揺れでポヨンポヨンと揺れています。


「私はこう見えて商人でね。ギルドマスターなの」


「へぇ。では商人ギルドの経営ですか?」


よろずギルドでね。色々熟すのよ」


 ほぉ。

 変わったギルドです。


「【狸の 腹鼓はらづつみ】って言うギルド名なんだけどね」


「ははは。面白い名前ですね」


「ふふふ。でしょ。肩肘を張らない可愛い感じが結構気に入ってるのよ」


「ええ。とても素敵だと思います」


「一応、S級認定を受けているのよ」


「それはすごいですね!」


「まぁ、派手な仕事はやらないから、知名度は低いけどね」


 馬車が止まったのは王都から離れた辺鄙な場所。

 ボロ小屋が1軒。その周辺には大きな風車がたくさんありました。


 おや?

 まさかここがギルドの本拠地?

 S級にしては随分とお粗末な作りですね。


 小屋の外では大剣を振る女が1人。


「戦士のバーバダよ」


 銀髪の背の高い美しい女性です。

 ナナハさんと同じ18歳。

 無気力な表情なのは性格を表しているのでしょう。

 一見すると無愛想で怖い雰囲気があるかもしれません。

 大きな胸は羨ましい限りですね。


 私がペコリと頭を下げると、彼女は小さく頷いてくれました。

 悪い人ではなさそうですね。


 本部と呼ばれる小屋の中に入ります。

 ナナハさんはみなさんに私を紹介してくれました。

 では挨拶をしましょうか。


「イルエマ・ジミィーナです。こんな地味な見た目ですが一応は聖女をしています。本日は食事のお招きありがとうございます」


 みんなの態度は平然としていた。

 別に無視をするわけでもなく、歓迎するわけでもない。

 いつもこうなのでしょう。自分の興味のあること以外は関心を示さないといった感じです。


「それじゃあ、イルエマはちょっとゆっくりしててね。お昼を用意するからさ」


「ナナハさんが作るのですか?」


「そうよ。みんなの食事を作ったり、掃除をしたりね。雑用は全部、私の仕事なの」


「……ナナハさんはギルマスですよね?」


「ははは。うちはそういう所だから気にしないで」


「はぁ……」


 変わったギルドだな。

 雑用なんて部下にやらせるのが普通なのに。


「私も何かお手伝いしましょうか?」


「いいからゆっくりしててよ。それよりニンニクは好き?」


「え、ええ」


「んじゃ、たっぷり入れてビフテキを焼いちゃうから楽しみにしててね」


「は、はい」


 うう、ニンニクたっぷりのビフテキ。じゅるり……。


 私はテーブルに座った。


 さて、ゆっくりと言われても手持ち無沙汰ですね。


 このギルドは、ナナハさんを入れて4人で形勢された小さな組織のようです。

 では、ゆっくりと紹介を受けたメンバーを観察しましょうか。


 私の右横に座っているのが魔法使いのレギさん。17歳。

 アイシャドウをふんだんに塗ったお洒落さんです。

 私とは住む世界が違う感じの綺麗な方。

 おっぱいが大きくてスタイル抜群。

 猫のように釣り上がった目は、何人の殿方を魅了したのでしょうか。

 ずっと、鏡を見ながら化粧をされています。

 魔力量が随分と高い。

 私なんかとは比べ物になりません。量でいえば竜とスライムくらいの差はあるでしょうか。流石はS級ギルドの所属ですね。

 

「ふーーん。聖女にしては、地味な子ねぇ」


「ははは。みんなから地味だと言われます」


「あ、そ」


 あらら。 

 会話が終わってしまいました。

 まぁ、この見た目ですからね。そりゃ興味の対象外でしょう。


 私の左横に座っているのが発明家のエジィナちゃん。

 彼女はボーイッシュな女の子。

 年は16歳。私と同じです。

 クルクルパーマの髪型と大きな碧眼の可愛らしい見た目だ。

 喋り方や立ち居振る舞いが独特で、なんというか慌ただしい。

 

「客人には悪いが僕は忙しいのだ。うーーむ。この数式をここへ移動して……ブツブツ」


 ギルドの発明は全て彼女が担当しているらしい。

 そこかしこに置いてある風車は彼女が設計したのだろう。


 はて、あの大きな紙はなんでしょうか?


「何を読んでいるのです?」

 

「君に言ってもわからんさ」


「ああ。設計図ですね」


「え!? う、うむ。今回も歴史を揺るがす大発明さ」


「ほぉ。それはすごい」


「ははは。まぁ、素人が見ても何を描いているのか皆目検討もつかな──」


「魔力を使った拡声器ですね」


「何ぃいいい!? ど、ど、ど、どうしてわかったんだぁあああ!?」


「ほえ? ……普通の声を魔力で増幅する装置ですよね? だって。ここに描いてますから」


「おいおいおい! これは誰でもわかる代物じゃないんだ! ここまで精密に描かれた図面は僕にしか描けないんだぞ!!」


「ええ。ですから一目見て構造がよくわかったのですが?」


「むぅううう! まさか、この複雑な図面を一目見て把握してしまうとは……。さては発明関係の職についているな?」


「いえ……。今はフリーの聖女です。以前は聖女ギルドに属していましたけどね」


「ふぅむ。さぞや名の知れた聖女なのだろうな」


「ははは。雑用係でしたよ」


「何!? ううぅむ。それは実力が発揮できていなかったのではないのか?」


「いえいえ。そんなことはありません。雑用は私に適任でしたよ。……って、あれ? ここって10Aの魔力方程式ですよね?」


「そうだが? 何かあるのか?」


「だったらこの構造では発声源である魔力に負けてしまうのでは? ここの柱はもっと太い方が耐久性があると思いますよ?」


「何ぃ!? 僕の計算に狂いはないはずなのに!!」


「ほんの少しのミスは天才にだってありますよね」


「うう! 今すぐ計算しなおしだ!! ここがこうだから……ブツブツ」


 エジィナちゃんは計算に熱中し始めました。体を動かしても微動だにしない胸は見ていて安心しますね。あなたとは仲良くなれそうです。


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