第23話 花束

 ひき逃げ事件が先日あった・・・・・

 被害者は亡くなったという噂である。


 いつも利用している路線バスの停留所の近くの道路の片隅に、亡くなった人を弔うように、小さな白い花束がそっと置かれていた。


 今夜は仕事の都合で残業し、やっと片付けて自宅近くにたどり着いたのは24時過ぎであった。最終バスを降り、花束の近くまでゆっくり歩く。


 誰でもそうだろうが、事故現場などを通るときは、何となく神経が張りつめる。ましてや深夜など、怖くないはずがない。


 真夜中だからか行き交う車も途切れ、暗い道路の横に置かれた白い花束が、闇の中に浮かび上がった。


 あれっ、ハズを降りたときは気が付かなかったが、人影が、誰かいる・・・・・


 女性のようだ・・・・・

 若い女子校生のようだ・・・・・


 ひき逃げ事件で亡くなった被害者のご家族だろうか?それとも仲が良かった友達だろうか?


 でも、こんな深夜に・・・・・


 たったひとりで・・・・・

 静かに立っている・・・・・


 花束の前で・・・・・

 ただ一人でじっと・・・・・


 花束の近くまで近づき、止まりかけた時に、暗い道路を車が1台通り過ぎて行った。


 女子校生が静かに振り向いた。通りすぎる車をじっと見つめていた。


 目も鼻も口もない、何もない顔で・・・・・

 血にまみれた顔で・・・・・


 あの日、ひき逃げの車がすべてを奪っていった。


 目も、鼻も、口も、

 そして、大切な命さえも・・・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る