3章 狐耳メイド「コリンナ」編
第13話 風呂でハニートラップ
ヘルガと一緒に空中散歩をしてきた。
サキュバスの翼というのは大したもので、人間一人くらい問題なく運べるらしい。
二人で夜空の散歩を楽しんだけど、すぐに切り上げて町長の屋敷へ戻った。
ヘルガが決闘の疲れでへとへとだったからな。
帰って来てみると、ミアが起きて待っていた。
疲れていたヘルガをオレとミアで部屋まで連れて行った。
ミアは布団に寝かせたヘルガに魔法陣の書かれた毛布を乗せると、薬草の調合を始めた。
「ミア、ありがとう」
「ヘルガ様はこの町の英雄です。
ですが、キレイな女の子なんです。
リク様のあれだけの猛攻を受けて、体に細かい傷がいっぱいできています。
傷なんか残ったら可哀想ですからね」
ミアが胸を張った。
「私、優秀な回復術士ですから、立派に直して見せますよ」
「知ってるよ。
オレのことも抱え上げて、回復してくれたからな。
尊敬してる」
ミアは、物凄く嬉しそうだ。
「リク様に尊敬してるって言われるなんて、私は世界一幸せな花嫁ですね!」
花嫁って何かの比喩かな?
まあミアが嬉しそうなら別にいいか。
「ヘルガのこと、頼むよ」
「……リク様の頼みですからね、頑張りますよ」
ミアは元気よく答えてくれた。
「私、今から【呪歌】を歌います。
だいぶかかりますので、リク様はお休みになられてください
ふふ、そんなに心配そうな顔なさらないで、あなた。
……少し妬けちゃいますね、やっぱり」
☆★
ミアがヘルガをつきっきりで見てくれているので、お任せすることにした。
一旦部屋に戻ったのだが、ちょっと眠れなくて広間でボーッとしていた。
「リク様」
おっと、ケモノ耳のメイドさん。
長めの銀髪に大きな金色の瞳。
クラシカルメイドの装いなので、ロングスカート。
ミニが王都では流行ってたけど、オレはこっちのが好き。
「獣人か、えっとコリンナだったかな?」
ケモノ耳のメイドさんは、ビックリしたように驚いた。
「使用人の私のことを、さっき少しだけあいさつしただけなのに覚えてていただけるなんて……」
「キツネ耳が珍しかったからな」
コリンナはちょっと嬉しそうな顔をした。
「ネコ族との違いを分かってくれて嬉しいです」
コリンナはメイドのワンピースからもはみ出るくらい尻尾を振って喜んでいた。
「ははは。
しっぽが動いているぞ」
「すみません、嬉しくて。
……リク様、眠れないんですか?」
もうこんな時間か。
「うん、眠れなくてな。
何でもいいから、飲み物を作ってくれないか」
「……もちろん、飲み物を望むなら作って差し上げますけど……ここ、町長の屋敷にはお風呂がありますよ。
村の中でも、珍しい施設で昼間は町民にも開放してるんですけど。
今は誰も居ませんからゆっくりできると思いますよ」
「おー、風呂か」
風呂が屋内にあるのは珍しい。
ないかと思って体を拭いて済ませようかと思っていたんだが。
「じゃあ、風呂に行くとするか」
「はい、いってらっしゃいませ」
オレは風呂を目指した。
☆★
ガチャリ。
脱衣所で全て服を脱ぎ捨て風呂へ。
一応脱衣所からは板で目隠しがされているけど。
「おー、これはなかなか」
石材で作られた風呂の周りを同じく石畳が敷かれていた。
10人くらいで入っても十分な広さの風呂は確かに町民にも人気が出るだろうな。
とりあえず風呂から湯を汲んで浴びる。
おお、熱い……が、オレはこれくらいが好きだぞ。
さて、体を洗ったら湯にでもつかろうかな。
体を洗おうとしてると……
ガチャリ。
おっと、誰か入って来た。
この足音は……
あー、レベルが低くて聴力も低いのかさっぱりわからん。
とりあえず、だれが入ってくるか見ておこう。
最悪暗殺者ってこともあるからな。
シュルシュルシュル。
衣擦れの音が響く。
響いたところでオレはレベルが低いから、衣擦れだなあとしかわからないけどね。
はあ。
前は足音で暗殺者くらいかどうかはわかったんだけどなあ。
目隠しから出て来たその人物は何も着ていないようで、タオルで身体を隠し、頭にキツネ耳をつけていた。
……コリンナ?
オレとばっちり目が合った。
「……」
キツネ耳のコリンナは何も言わない。
え?
他の人なら勘違いってこともありえるけど、コリンナが風呂を勧めて来たんだからオレが入ってることを知らなかったってことは無いよな?
「お、お背中お流しいたします」
さすがに知力の低いオレでもわかる。
これってトラップじゃん。
オレを色気でメロメロピーにして、殺したり言うことを聞かせたりする気かもしれない。
コリンナはしずしずと歩いてくる。
あー、チクショウ。
レベルが高かった昔だったら、足音で暗殺者かどうかわかったんだけどな。
「コリンナ」
「は、はい」
オレは、コリンナを睨みつける。
「オレはコリンナを疑いたくはないが、暗殺者の可能性もある。
不本意だが、これ以上オレに近づくならボディチェックをさせてもらうぞ」
「ボ、ボディチェック……ですか」
不本意だが、仕方ない。
オレだって死にたくないからな。
あー、死にたくないから仕方ないな。
「オレの背中が流したいならタオルを置け。
それでジャンプしろ」
コリンナを見てつい口がジャンプしろと言ってしまった。
まあ、この条件でタオルを落としてくる奴なんて120%トラップだけどな。
ストン。
おい、まじか。
「……どうぞ、ご自由にボディチェックをしてください」
おいおい、コリンナがジャンプしてる……
うーん、メイド服ではわからなかったけど、めっちゃ揺れてるんだけどッ!
コリンナは生まれたばかりの姿をさらしジャンプしながら、大粒の涙を流した。
涙を流すくらいなら、しなければいいと思うけど……
まさか。
オレは、コリンナに飛び掛かると体をひっくり返した。
コリンナの背中には、大きく体表に【隷属紋】が刻まれていた。
人間や獣人を奴隷として逆らえないように刻む非人道的な仕打ち。
なぜだ?
【隷属紋】はオレが50年前廃止したはずだ……
「や、優しく、お願いします……」
コリンナは消えそうな声でオレに話しかけると、大粒の涙をボトボトとこぼした。
この調子じゃ男に抱かれたこともないんだろう。
そんな子に色仕掛けをさせるとはッ!
オレは怒ったぞ。
「お前は、誰の奴隷なんだ」
「う……うう……」
体を震わせるコリンナ。
「怒られるのを気にしているのか……大丈夫だ、お前はオレが絶対に幸せにする。
頷いてくれればいい。
町長がお前の主人なんだな?」
コリンナはコクリと頷いた。
そうとわかればッ!
「行くぞ」
オレは、コリンナを引っ張って風呂場を出た。
「服、服―!」
コリンナが何か叫んでいるが、頭に血が上った知力、聴力の低いオレにはなにを言っているかわからなかった。
急いで風呂場から出た。
寒いなあ。
まあ、寒いもんは仕方ない。
気合いだ、気合い。
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