祭の後、盆の上

[ショートショート] [ダーク] [ファンタジー度★★☆]


 男の首に白く細いすらりとした両腕を回して。美しい娘は、たいそう満たされたような微笑みを浮かべていた。

「真実の、愛の、くちづけ」

 赤く色付いた唇で、娘はそっと囁きを夜風に乗せる。


 その声は誰にも届かない。かつて王宮中の人々に囲まれていた王女たる彼女の周りには、今や誰もいないのだから。美しい娘は、たいそう満たされたような微笑みを浮かべていた。

「私の愛を、否定する人は、もういない」

 うたうように、囁きを。


 じきに夜明けが来る。その頃には娘の命は尽きるだろう。娘の背中には、王家の紋章の刻まれた剣が深々と。

 切り落とされた預言者ヨカナーンの冷たくなりゆく首を掻きいだいて、サロメは囁いた。

「私、貴方に、くちづけしたの」

 美しい娘は、たいそう満たされたような微笑みを浮かべていた。




~お題:文字書きワードパレット・「サロメ:首、夜明け、囁き」~

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