しゅうまつのまおうさま
[短編] [ミディアム] [ファンタジー度★★★]
静かな朝だ――
ベッドの上で体を起こし、大きく伸びをする。昨日久々に無茶をしたせいか、体が痛い。やや顔をしかめながら、首と肩をもう一回し。
側近をはじめ部下たちは皆休みを取っている。一人でゆったりと、朝食の準備をしに城のキッチンへと向かう。
……いや、その前にちょっと散歩に出ようかな。着替えをして、だが重たいマントはクロゼットにしまったまま。その足を城の外へと向けた。
城下の街をのんびりと歩く。この前広場にできた大穴を眺めて「ほー」とつぶやいてみたりする。これはまた随分と派手に……。後に観光名所にでもなりそうだ。そうとぼけたような感想を取り留めもなく抱いた。
城に戻る頃にはもう朝食と言うよりかはブランチの時間。慣れない料理などをしてみて(……と言っても、道すがら採れた卵を焼いたぐらいだが)できたものは少し焦げてしまったが、うむ、悪くはなかった。
その後は執務室で、これまで手つかずだった書籍を開いてみたり、やっぱり読み切れずにパタンと閉じて脇に置いてみたり。そのまま背もたれに体を預けて、うたた寝に興じて。
いや実に怠惰なものだと一人苦笑しながらも、どこかでそれを楽しんでいる自分もいた。まぁこれは到底、皆には見せられぬ姿よなぁ。
そうこうするうちに時は過ぎて、あれよあれよという間に日没の刻となった。
食料庫内の塩漬け肉やら干しキノコやら。それらを全て余すことなく使ってちょうど一人分の軽めの夕食となったものを、ゆっくりと腹におさめる。
酒でもひっかけるか。いや、今日は茶にしておくか……。香り高い湯気をカップから立ち上らせながら、城の窓より外を眺めた。
天地創造の後の七日目に神は休んだというが、神はその七日目の休みの後はどうしていたのだろうなぁ。異教の教えを思い浮かべたのち、神にもなれなかった自分は……と、フッと笑う。
もう、眠りにつくとするか。
そう思い向かった先は、己の寝室ではなく玉座の間。重いマントを身に着けて、歩みを進める。
玉座に掛けて首を軽く下に傾け、ぽっかりと大きな穴の空いた胸の上で両手を組み、目を閉じる。
時が回り新しい日が訪れ、空いた穴から聖なる光が溢れる。そういう、取り決めだった。
「ああ、いいしゅうまつであった」
そうして魔王は封印された。
[完]
テーマ:しゅうまつは、いかがおすごしですか?
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