庶民の私だけが知っている!イケメン貴族が大ピンチ!愛する人のために時空を超える!

さかいおさむ

第1話


 「こ、これが【時間のブレスレット】……!?」


 『フォッフォッフォ! 願えばやりなおし放題じゃよ』

 「はは……タイムリープってやつかな? おばあさん大丈夫……?」

 『フォッフォッフォ!』


 「でも、このブレスレットは可愛いし、タダでくれるっていうならもらっていくね!」

 『フォッフォッフォ! プレゼントしよう。老婆の気まぐれじゃ』


 おばあさんの冗談に付き合ってあげよう。

 登校中のマリーは怪しい老婆から怪しく光る赤いブレスレットをもらう。

 老婆いわく、念じながら握りしめると時間を遡れるというブレスレットだ。


 「変なおばあさんだったなぁ……って! 遅刻遅刻ー!」



 マリーの通う学園は王族、貴族、資産家の子供が多く通う上級学校。

 ほとんどの生徒は馬車での送迎付き。朝から走って登校する生徒はマリーくらいだ。

 マリーの家は両親が小さな会社をやっている。大金持ちではないが生活に困るということはない。

 しかし、そのレベルはこの学園では庶民扱いだ。

 


 「はぁはぁ……ギリギリセーフ!」

 「また遅刻ギリギリなの? なぜ学習しないの? もう少し余裕をもって家を出れないの?」

 「う、うるさいなぁ……アンヌもたまには走って登校してみれば?」


 クラスメイトのアンヌ。天才少女だ。家は金融業を営んでいる大富豪のお嬢様。

 不愛想なアンヌだが、真逆の性格のマリーとは不思議と仲良しだった。




 授業が始まる。

 「えー、みなさん。今日は抜き打ち試験を行います」

 教師の突然の試験にざわつく教室。


 「うっそー! 聞いてないよぉ……」

 「あんたね……それが抜き打ち試験よ?」

 アンヌは呆れてつぶやく。


 マリーは勉強が苦手だ。この学園では成績が悪いとバンバン退学させられる。

 もちろん、貴族の権力や大富豪の裏金があれば話は別だろう。

 しかし、庶民のマリーにそんな裏技が使える訳はない。一回一回の試験が真剣勝負だ。


 

 試験はなかなかの難しさだった。マリーは無い頭脳をフル回転させる。

 「うぅ……赤点は回避しないと……」



 「はい。そこまでです」

 答案用紙が回収される。


 「マリー、試験はどうだった?」

 「難しかったよぉ……ヤバいかも。 ふん、アンヌはどうせ楽勝だったでしょ!」

 涼しい顔のアンヌと全力を出し尽くしクタクタのマリー。


 「まあね……あ、でも最後の問題は難しかったわね」

 「え? アンヌでも!?」


 「ええ、あれは古代数式を使わないと解けない特殊な問題だわ」

 「古代数式!?……アンヌは解けたの!?」

 「たまたま最近、古代数式の研究をしてたから。まあでもこの学園でも解けるのは私くらいじゃないかしら?」

 不思議とアンナがいうと偉そうには聞こえない。あー、そうなんだろうな、とマリーは思った。


 「ちなみに古代数式で解いていくと答えは今日の日付になったわ」

 「10月25日……1025か……うう……赤点かなぁ? 退学はやだよぉ」

 



 「マリー、おはよう!」

 「モ、モーリス様…… おはようございます!」


 「今日も遅刻ギリギリだったね」

 「う、うぅ……」

 「ふふ、迎えに行くから僕と一緒に馬車で登校すればいいのに」

 「とんでもないです! モーリス様!」

 「様なんてつけないでくれよ? 昔はモーリス、モーリス言ってたじゃないか?」

 「い、いえ……とんでもございません……」


 モーリス・ガブリエル。

 長身に美しい金髪の整った顔立ちの貴族。超名門ガブリエル家の長男で学園1モテる男だ。

 マリーとは身分がだいぶ違うが、二人は幼馴染みだった。

 幼い時は仲良く遊んでいた二人だが、成長するにつれ身分の違い知ったマリーは以前のように親しく接することが出来なくなっていた。


 名門ガブリエル家でありながら誰にでも優しく接し、頭脳明晰、スポーツとあって将来を期待される青年だ。



 「試験は大丈夫だった?」

 「うぅ……ギリギリ……ですね」

 「ふふ、頼むよマリー! 一緒に卒業しないとね!」

 「モーリス様……」


 誰にでも優しいモーリス様だが、マリーにはとくに優しい。

 周りからは身分が違い過ぎるのにおかしいと言われることも多い。



 「モーリス様ぁ! そんな庶民となにを話してらっしゃるんですか?」

 モーリスファンの女が寄ってくる。


 「よかったら私とランチご一緒なさいませんかぁ?」


 「……ごめん。今日は昼に用があるんだ。ランチは無理かな?」

 モーリスはどこか暗い表情で答える。


 「あら、残念ですわ。今日のお弁当はウチのシェフが作ったスシと呼ばれる幻の料理でしたのに」

 「ごめんね。また今度みんなで食べよう」


 モーリスはいつも女に狙われている。モーリスのルックスはもちろん、貴族の地位、資産を狙う女は多い。

 モーリスはそんな彼女たちにも優しく接している。

 そして、モーリスがいつも気に掛けているマリーを嫌う女は多かった。



 「ふん! なにが幻の料理だ」

 「モーリス様はモテるからね……マリーも大変ね」


 「それよりやばいよ、アンヌ……赤点かも……」

 「うーん……私に言われてもね」


 「退学になったら、モーリス様と離れ離れになっちゃうよぉ」

 「あんたね……まあもし退学になってもモーリスはきっとマリーを離さないと思うわよ?」

 「え!? なんで?」

 「……本人は気が付かないものなのかしら?」

 「??」


 モーリスがいつも誰を想っているのか、それくらい学園一の天才にはお見通しだったが、マリーには黙って置こう、そう思ったアンヌであった。




 マリーは今朝、手に入れたブレスレットが目に入る。


 「まさか、ねぇ……? アンヌ、さっきの試験の答え何個か教えてくれる?」

 「お! 復習ね。素晴らしい心がけだわ」

 「ま、まあそんなとことかな?」


 マリーはアンヌから答えを教えてもらう。全部覚えておける自信はないが数問ならさすがのマリーも覚えておける。


 「なるほど、なるほど……では、アンヌ。私は過去に行ってくるよ」

 「……は?」

 「今日の私は時間を一っ飛びなのよ!」

 「……頭大丈夫?」

 「う、うるさいな! 分かってるよ、冗談だよ」


 そう言いつつ、マリーはブレスレットを握りしめ願った。


 【やりなおしたい!】


 「なーんてね……あれ……?」


 ◆


 「えー、みなさん。今日は抜き打ち試験を行います」

 ざわつく教室。1時間ほど前の風景だ。


 「え……?」

 「どうしたのマリー?」

 「ア、アンヌ……まさか?」



 試験用紙が配られる。


 「……うそ、信じられない」


 その試験は先ほどの問題と全く同じ。

 (間違いない……私、時間を遡った!)


 信じられないが老婆のくれたブレスレットは本当にタイムリープできるようだ。


 「やった……これで赤点は回避できる!」

 マリーはアンヌから教えてもらった答えを忘れないうちに書いていく。


 「……そういえば最後の問題は古代数式がどうとかって……答えは今日の日付って言ってたっけ?」

 マリーはあっという間に回答を終えペンを置く。


 「はい。そこまでです」

 答案用紙が回収される。


 

 「マリー、あんた試験始まってすぐにペンを置いてたけど……諦めたの?」

 後ろの席のアンヌが心配そうに話しかける。


 「アンヌ……ありがとう……赤点は回避できたよ!」

 「あ、あら……それはなにより……」

 「アンヌのおかげだよぉ!」

 「……?」


 なぜか感謝されるアンヌは困惑した。

 カンニング? いや、アンヌの席はマリーの後ろ、カンニングは不可能だろう。


 「あ! 最後の古代数式? あれもバッチリ!」

 マリーは親指を立てる。

 「うそでしょ……? マリー、あんた……何があったの?」



 「マリー、おはよう」

 「モーリス様……! おはようございます!」

 (モーリス様、タイムリープしても優しい……素敵……)


 「ご機嫌だね! 試験よくできたの?」

 「はい! バッチリです!」

 「よかったね」

 モーリスはマリーに微笑む。



 「モーリス様ぁ! そんな庶民と何話してらっしゃるんですか?」

 またモーリスファンの女が駆け寄ってくる。


 (もう! タイムリープしてもウザイ奴だなぁ!)


 「あんたには関係ないでしょ! 一人でスシってのでも食べてなさいよ!」

 マリーは女に怒りをぶつける。


 「キィィィ! なによ庶民の分際で!!」

 「うるさいわね! 引っ込んでなさいよ!」

 「フン! 生意気な女ね! ……あら? なんでスシって知ってるのかしら……?」


 


 【時間のブレスレット】これは本物だ。


 左腕につけたキラキラと光る赤いブレスレット。

 どうやらマリーが過去に戻りたいと願えばタイムリープできるようだ。



 マリーは朝の老婆の言葉を思い出す。


 【フォッフォッフォ! 願えばやりなおし放題じゃよ】


 「やりなおし放題……何回でもできるって事……?」


 この力はかなり危険だ。悪人が使えば世の中を変えるようなこともできるだろう。

 しかし、マリーはそんな難しいことを考える頭脳はなかった。


 (これさえあれば……もう赤点は怖くない!!)



 「さあアンヌ、お昼食べよ」


 アンヌを誘う。不愛想なアンヌの友達はマリーくらいだ。

 大富豪の娘だから近づこうとする人間も多く、アンヌは誰も信用してなかった。

 そんなアンヌが唯一心を開いたのがマリーだ。

 性格は真逆の二人だが。今ではすっかりいいコンビだ。



 「それにしても……今日のマリーなんかおかしいわ……」

 「え?」

 「マリーが試験を楽々解いて、おまけに古代数式なんて……」

 「ふっふっふ、実はね……」


 マリーがタイムリープの話をしようとしたその時、校内が騒がしくなる。

 廊下では誰かの泣き声や悲鳴。


 「なんだろう……?」


 いつもとは違う校内。なにかがあったようだ。


 「お、おい! 大変だ!!」


 一人の生徒が教室に駆け込む。人の噂話なんかをいつも面白おかしく吹聴する奴らだ。

 しかし、今日は様子が違う。彼の一言で教室は絶句する。


 「……モーリス様が……死んだ……殺された……!」


 「……え?」


 マリーの頭の中は真っ白になった。


 モーリスは校舎裏でナイフに刺され殺されていた。

 


 超名門貴族ガブリエル家のモーリスが殺されたとあって学園は大騒ぎだった。

 生徒はもちろん、教師にも動揺している。



 「マリー……大丈夫?」

 アンヌはマリーの背中をさする。


 マリーは放心状態だった。

 

 物心つく頃からの幼馴染み。あの頃は身分の違いなどなく二人いつも一緒に遊んでいた。

 マリーの初恋は間違いなくモーリスだった。そして、その想いは今も変わっていなかった。


 「……モーリス様……どうして……うっうっう……」

 「マリー……」


 号泣するマリー、愛するモーリスは何者かに殺された。

 学園中が涙に包まれる。学園のスターはもう帰って来ないのだ。

 マリー以外はそう思った。


 「アンヌ……」

 「どうした?」

 「……相談があるんだ……私……バカだから……アンヌの力を貸して……!」


 やりなおしてやる……! 何度だって!

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