私はブッコロー
@bmelody
第1話 俺
オレンジの光が俺のまぶたを刺激する。ふわりと揺れるカーテンの影のおかげでチカチカと映り、俺は目覚めた。どれぐらい眠ったのだろう、外からは小学生の集団のがやがやが聞こえてくる。たぶん学校帰りなのだろう、心無しか弾んだ声に聞こえる。もうそんな時間か、少し眠りすぎたかもしれない。
そっと蛇口をひねると少し冷たい水のせいで鳥肌が立ってしまった。キッチンへ向かうと、先ほどセットしておいたコーヒーのいい香りが俺の小さな鼻の穴に滑り込む。テーブルに着いてコーヒーをぐいと飲み干し、足早に玄関を出た。急に思い出したのだ、今日は大事な用事があったのだ。
外へ出ると子供のうれしそうな声とその母親達の笑い声が聞こえる。子供達は学校へ行くという大仕事を終えて、後は遊ぶだけなのかもしれないが、私はこれからが本番なのだ。すっと横を通り過ぎようとすると、「わぁ、かわいい。」という女の子の声と共に、足を引っ張られる感覚があった。俺のぎょろっとした目は初対面の人には目をそらされることが多いのだが、子供たちにはなぜか人気のようで、今日もあっという間に囲まれてしまった。
「困ったなぁ、今日は用事があるのに。」と心の中では思っているが、それを外に出してはいけない。周りで見ていたお母さん方に軽くアイコンタクトを送り、
「さぁみんな、これから僕は明日公開の動画の収録に行くんだ。ここに書いてあるチャンネルでね。」
ちょうど番組のチラシを持っていて良かった。最初に声を掛けてきた女の子にそれを渡し、その場を離れた。「僕、なんて普段言わないのに咄嗟に出てしまったな。」などと考えていると後ろから、「あのお兄さんはこれから仕事なんだって、さぁお家に帰って調べてみましょう。」と、お母さん方の声が聞こえた。
仕事、と言ってもいいんだろうか。俺はちょっと照れ臭くなって、急ぎ足で夕日の方へ向かった。
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