第24話

「クレア陛下、体調は、落ち着いたようですね。熱も下がったようですし、すぐに湯浴みの用意をします」


 マヤはすぐに体調を把握した後、ロダに連絡し、湯浴みの準備をする。熱が下がるのに二日も掛かってしまった。


「マヤ、滞っていた執務を行うわ。食事は執務室に運んで頂戴」


「畏まりました」


 そうして私は執務室へと入室する。部屋ではロダや側近達が仕事をしていて私を見て起立し、礼を執る。


「陛下、病気は大丈夫でしょうか?」


「ロダ、私はもう大丈夫よ。みんなにも迷惑を掛けたわね。あれからカミーロ一族はどうなったのかしら?」


「詳しくは今呼びにいっている宰相から話がありますので暫くお待ちください」


どことなくナーヤの表情が思わしくない。何かあるのかしら?


「ナーヤ、どうしたのかしら?」


「クレア陛下。折角事前に注意してもらっていたのにすみませんでした。家内が夫人と連絡を取っていたようです。既に宰相には知らせてあります」


 その言葉に他の二人も暗い表情をしている。内容によってはナーヤの家も対象に含まれてしまうもの。それに信頼が出来つつあったのに主君を殺された恨みの対象になりかねない。ナーヤ自身が違うとしても。


 それほどミカルもイクセルも兄の事を大事に思っていたもの。席に着いて書類に目を通しながらお茶を飲んでいると、宰相が部屋へとやってきた。


「おはようございます、陛下。体調はもう宜しいのでしょうか?」


「宰相、気を遣わせてしまったわね。カミーロ前公爵の調べは終わったのかしら?」


「はい。事前に調べてあった事もあり、昨日の時点で調査は大方終わりました。カミーロ前公爵家、ソフマン子爵家を含めた親戚筋四家全てに何らかの関与がありました。そして反王族派の貴族二家はカミーロ前公爵家の作った禁止薬を売買しようとしておりました。実際は購入までいっていなかったようですが。あと、城に入り込んでいる公爵家と繋がりのあった者、十五名を既に捕縛しております」


「そう。それでメグレ侯爵夫人はどう関与しているのかしら?」


「どうやらカミーロ公爵夫人と息子のジャイロを隣国への逃亡に手を貸していました」


……夫人達は既に牢に入っている。ナーヤの奥さんも捕まっているのかしら。


「何故、逃亡に手を貸したのかしら、ね」


私はそう小さく呟いた。


「ナーヤ、今奥さんは何をしているの?」


「はっ、妻とは既に離縁している状態です。そして現在、彼女は侯爵家の一室で監禁しております」


「奥さんの実家は確か伯爵家だったわよね?引き取る予定なのかしら?」


「いえ、伯爵家からは王族殺しに手を貸した者に容赦はしない、帰ってくれば命は無いと宣言されております」


「……まぁ、そうでしょうね」


 ナーヤの奥さんの実家は王族派の中心と言っても過言ではないほどの人物だもの。当時、反王族派と王族派の二人は障害を乗り越えて婚姻したのよ。


嫁いだとはいえ娘が仕出かした事は伯爵としても許せるものでは無かったはず。


――クレア、気持ちは理解するが、他の貴族の事も考えろ。甘い判断は王にとっては致命的になる。 

 ……はい。分かってはいるのです。自分の弱さがやるせない。もどかしい。


「陛下、処分をどうされますか?」


「……そうね。城で従事していた者はそのまま結界内への取り込み。禁止薬を売買をしようとしていたのは何処の家かしら?」

「フォレスター子爵家、フォントール男爵家です」


「そう、その二家はどうして売買しようとしていたのかしら?」


「カミーロから市場に流せと言われていたようです。市場に出回ってしまえば足が付きにくいと考えたようです」


関係している書類に目を通しながら宰相の話を聞いた。


「両家とも爵位、領地剥奪。それから、メグレ家については夫人は結界内への取り込み。侯爵家は子爵家へ降爵。領地の一部を返還。ナーヤ・メグレは側近を解雇とする。結界内に取り込む処置は私自身が立ち合うわ。ミカル、イクセル、新たな側近を速やかに二名選出して頂戴」


「「「畏まりました」」」


一同私の指示に緊張した面持ちで答える。ナーヤにとってはとても辛い事に違いない。ミカルとイクセルと宰相は慌ただしく今後の話をしながら執務室を出て行った。


「クレア陛下、折角側近にしてもらったのにっ。足を引っ張ってしまいました。本当に申し訳ございませんでした。全ては俺の責任です」


「ナーヤ、こんな結果になってしまったのは残念で仕方がないわ。貴方の実力は確かなもの。当分メグレ家は冷たい視線に晒されるでしょう。これからは子爵として頑張りなさい。さぁ、彼女と話す時間は必要でしょう、今日はもう帰りなさい」


「……はい。最後までご配慮頂き有難うございます」


 ナーヤは深く一礼してから部屋を出て行った。途端に執務室は広く静かな空間となった。


「ロダ、アーロンを呼んで頂戴」


「畏まりました」


 これで本当に良かったのかと自問自答しながら書類に目を通す。


「お呼びでしょうか」


「えぇ。ロダとアーロン以外は少し下がって頂戴」


 私はそう指示し、従者や護衛騎士は部屋を出る。念には念を入れて防音結界を張る。


「ロダ、アーロン。ソフマン子爵の事だけれど、お願いがあるの。いくらカミーロに無理やり従わされていたとはいえ、彼等は禁止植物を栽培したわ。確実に処刑となる。けれど、マレナ嬢は私に助けを求めた時、魔法契約を行ったの」


「魔法契約、ですか」


「えぇ、そうよ。内容は一番重い物よ。彼女の勇気を汲もうと思っているわ。それらしき犯罪者を人数分用意して頂戴」


「畏まりました。彼等は今後どうするのか聞いても?」


「生涯姿を変えてもらう事になるわ。全くの別人としてね。マレナと同様の契約を家族全員が署名しているの。まぁ、ソフマン子爵と夫人は使えないわ。二人には王都外でのんびり平民として暮らしてもらうしかないわね。


マレナは侍女として、マレナの兄は、そうね、騎士としての実力もそこそこらしいから従者か使えるなら影として使えればいいかしら。絶対に裏切る事の出来ない従者が手に入るの。どこかの遠縁の者として配属させて頂戴」


「……左様でしたか。では内密に用意しておきましょう」


アーロンとロダは頷き納得したようだ。


 そうして二週間が過ぎる頃には騒動もようやく落ち着いてきた。


 新たに私の側近となったのはマーク・リントン子爵子息とラウロ・リオネッリ伯爵子息。リントン子爵は現在外交官であり、息子である彼もまた外交面に長けている。


リオネッリ伯爵子息は兄の幼馴染だった人で私とは小さい時に何度か遊んでもらった記憶のある落ち着いた人。二人とも早く仕事に慣れてくれるといいなと願うばかりね。

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