第6話

 翌日、私はいつものように夜が明けぬうちから一人執務に励む。結局昨日は日頃の疲れもあって夕食後すぐに寝てしまったの。


いつもの倍は寝たんじゃないかしら。


おかげで今朝から頭も冴えている。サクサクと書類を捌いていく。


「……下、クレア陛下」


 私を呼ぶ声にハッと気が付く。どうやら集中していたために呼ばれている事に気が付かなかったようだ。


――集中し過ぎだ、馬鹿者。

 返す言葉もありません。


「さ、宰相、どうしたのかしらっ?」


「侍女長から来週のお茶会の出席者名簿が上がってきております。あと、次回以降、お茶会、舞踏会用ドレスが必要となるため準備いくつかのデザインを用意したとの事です。お目を通して下さい」


「わっ、わかったわ。有難う」


すぐに書類に目を通す。今回のお茶会は男爵から公爵までの年齢の近い令嬢達が集められた大きなお茶会のようだ。


 派閥なども考えられたバランスの良い座席となっているらしい。流石侍女長。当日の流れも事細かに書いてある。


「宰相、これで問題ないわっ。ドレスはこれと、これ、あと、これもお願いっ。この部分は少し華やかにして頂戴っ」


「畏まりました」


お茶会か。とっても憂鬱だわ。


 これでも私は王女のはしくれではあったので何度かお茶会を開催しているし、最低限は出席しているので問題はないのだけれど。令嬢達は流行や噂話で盛り上がるの。私はそんな時間を魔法や政務に使いたいと思ってしまうだけ、なのがいけないわよね。


あー憂鬱だわ。


 宰相は書類を片手に午後からの面会を忘れないように、と言いながら部屋を出ていった。はぁ、これも面倒事だったわ。けれどこればかりは仕方がない。憂鬱だと思いながらも今日の執務を全力で終える。今日は誰だっけ。


「アーサー・テーラー公爵子息が中庭でお待ちです」


従者が見越したように中庭に移動する際に教えてくれる。


「ありがとう」


 私が中庭に訪れるとアーサー様はお茶を淹れていた侍女に微笑み言葉を交わしている様子だった。とても楽しそうな雰囲気ね。彼は私を視界に捉えると立ち上がり、手を振った。侍女は驚いた顔を一瞬したが、頭を下げて一歩下がる。


「あらっ、ご迷惑だったかしらっ?」


私は笑顔で話し掛けてみると、彼は気にしていない様子。


「クレア陛下、お待ちしておりました。こちらの美しい侍女に美味しいお茶を淹れて貰っていただけですから」


「ふふっ、そうだったのねっ」


 私は従者のエスコートで席に着いた。従者は侍女に下がるようにそっと話をしたのだろう。侍女は青い顔をして頭を下げた後、中庭から下がった。


「陛下、素敵な中庭ですね。是非、見てみたい」


「え、えぇ。では案内します」


そう言うと、アーサー様はさっと立ち上がり、私に手を差し出した。二人でゆっくりと中庭を歩き、花達を眺める。二人の姿を見た者達はきっと仲睦まじく見えているのではないだろうか。


「陛下は街へ出掛けた事がありますか?」


「ち、小さな頃は兄とお忍びで出掛けた事があったけれど、今は忙しくて街へは行っていないわっ」


歩きながらアーサー様は街の様子を話してくれる。


「今、王都では宝石と盗賊という歌劇が流行っているんです」


「もしかして原作は『宝石姫と一人の盗賊』なのかしら?」


「そうです。流石クレア陛下。令嬢達は主人公の宝石姫に涙し、話題を呼んでいるのです」


「か、歌劇なんて何年も行っていないわ。原作を読んでもとても面白いと思ったもの。きっと見ごたえがあるのでしょうね」


そうして薔薇の並木の前で立ち止まると、彼は薔薇を一輪さっと手折って棘を折ると私の耳元へ飾った。


「とても美しい。宝石姫のように見るもの全てを魅了する。こうして美しい陛下の側に居るだけで心をかき乱されて仕方がない」


「ふふっ。愛に生涯を捧げるのも面白そうね」


そう思わせるほどアーサー様はとても話し上手で楽しかった。


「クレア陛下、執務の時間です」


 従者の言葉で時間を知る。もうそんなに経ったのね。こんなにも時間が短く感じるなんていつぶりかしら。


「で、ではテーラー公爵子息様、執務に戻りますっ」


「クレア陛下、楽しい時間を有難うございました。次回まで首を長くして待っております」


「ふふっ、ではまた。ごきげんよう」


 そうして私は従者と共に執務室へと入る。アーサー様は人当たりの良い感じだし、話していて楽しかったわ。エスコートも自然にしていて普段から令嬢達にもスマートなのかしら。


次回も楽しみだわ。


 私は執務を少しばかりしてから部屋へと戻った。やはり自分の時間が出来るのは素晴らしい。気になっていた魔導書を読み漁り、この日は終了となった。



 翌日も早朝から執務に取り掛かる。今日の予定は午前中に執務と大臣達と会議だったわね。


午後は騎士団にでも顔を出してみようかしら。


 私が身体強化を使い書類を捌いていく姿を見た従者はびっくりはしていたけれど、慣れたのか今では気にせず一定時間になると『陛下、お茶が入りました。休憩をお取りください』と声を掛けてくれている。気遣いが素晴らしいわ。


時間となれば「会議の時間でございます」と知らせてくれる。


確か彼の名はロダと言っていたわね。


私は従者に感謝の言葉を伝え、そのまま会議室へと入室する。会議室には既に大臣と宰相が待機していてどうやら私が最後のようだ。


「ま、待たせたわっ。すぐに会議に入りましょうっ」


 大臣達は各々部署の現在の様子を伝えてから今後の方針と現在抱えている問題を挙げ、予算の話をする。毎回渋い顔をするのは財務担当大臣だ。まぁ、こればかりは仕方がないわよねっ。そして大臣達の話し合いで決まらない場合や気づいた事があった時に私や宰相が口を出す。


今回はその形で会議は進んでいく。たまに大臣から意見を聞かれて答える。もちろんしっかりと答えるためには全ての事柄を把握している必要があるのでそこは頭に叩き込んでいるわ。


 最初は若い私に不信感を抱いていた大臣達も私が意見を述べていくうちに少しずつだけれど、不信感を拭えたのではないかしら。


たまに戸惑う事があり、顔に出しそうになったけれど、そこはグラン様が代わって答えてくれたの。会議の終わりには『流石才女と言われるだけある』と何人かの大臣が言っていたのには少し気恥ずかしかったけれどね。


会議も無事に終わり、午後の休憩に入った時、護衛と共に騎士団へと足を運んだ。




ーーーーーーーー


~お詫び~

(作者的に)タイトルが上手くはまらず、変更してしまいました。読んで頂いている方、困惑させてしまい申し訳ありません。゚(゚´Д`゚)゚。

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