墓の巨木

 こんな夢を見た。

 父の墓石が巨木と重なっている。

「物質は同時に同位置を占めることはできないはずだ」と、僧の背に声をかけた。すると僧は墓の方を向いたまま、手を後ろに伸ばした。手にはどんぐりを連ねた数珠がかかっていたが、私が受け取る前に、巨木を駆け下りてきたリスに奪われてしまった。リスは、巨木の幹に突き刺さっている、たくさんの顔だけの蝉を足場に、するすると登って見えなくなった。

 僧は平然と墓石に酒や塩を撒き、深く一礼した。

「父はこの巨木を上って天国へ行きましたか?」「否」

「父はこの巨木と一体化して守り神となりましたか?」「否」

「父はこの巨木で調伏すべき祟り神となりましたか?」「否」

 三度「否」と言った僧は蝉の顔をしていた。

「この場所に木を植えたのはお前だな」

 と蝉の顔の僧が言った。

「父が生まれる前のことだ」

 と私は答え、顔だけの蝉を踏んで、巨木をするすると登っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る