第11話

 木刀を持ち、それを構えることもなく自然体で立ち尽くすカズトと言う唯一スキルを持たない少年を前にするレンズは剣を構えながら少しばかりの困惑を覚える。


「……ッ」

 

 構えも何もなく、隙だらけとした言いようのないカズトへと打ち込もうとするが、何故か……どこに打ち込んでも軽く受け流されるイメージしか湧かず、打ちに行けない。


「どうしましたか?」

 

 そんなレンズの方へとカズトは心配そうな視線を向け、口を開く。


「いや……なんでも無いッ!」

 

 レンズはその言葉を聞き、自身の迷いを打ち破って一歩前へと踏み出して木刀を振るう。

 カズトはレンズの木刀をきれいに回避する。

 一振り、二振り、三振り、四振り……レンズは幾度もカズトへと木刀を振るうのだが、そのどれもが当たらない。

 その全てをカズトは自身の肌を滑らすように、最小限の動きで回避する。

 

「……本気でやっても構いませんよ?」

 

 どれだけ攻防を続けたことだろうか?

 レンズが剣を振るい、カズトがそれを避ける。

 その果てにカズトは首を傾げながら口を開く。


「……何を言って」

 

 カズトのその言葉に対してレンズは困惑の声を漏らす。


「あぁ。もしかして既に全力でしたか?」


「……ッ」

 

 そして、続くカズトの言葉でレンズは自身が挑発されていると確信する。


「あっ、すみません。別に挑発するつもりはないんですよ。余計なことを話しましたね」

 

 カズトは一切無駄のない動きで後ろへと下がり、剣を構える。


「このまま続けていても面白みにかけますし……終わらせましょうか」

 

 剣を構えるカズトの姿……別にそんなに珍しくない凡庸的な構えであるのにも関わらず何故か底しれない恐怖とどう打つこんでも敗北するという未来を幻視する。


「……あまり、俺を舐めないほうが良い」


 だが、レンズにも自負がある。

 己の才覚と努力で力を手にし、騎士団長の座についたという自負が。

 ここまで挑発され、軽んじられ、黙っていることなど出来るはずがない。


「……ッ!」

 

 レンズの全力。

 自分の何もかもを出すかの如き勢いで剣を振り上げ、足を踏み出し、カズトへと迫る─────

 

「……え?」


 その次の瞬間には木と木のぶつかる乾いた音が響いた後に自分の手から重さが消える。

 

「終わりですね」

 

 一体いつ動いたのか。

 瞬きする間にレンズ自身の首元へと木刀を突きつけたカズトが笑顔とともに終わりを宣告する。

 文句なしのカズトの勝利である。


「……ぁ」

 

 首元に木刀を突きつけられ、動けないでいるレンズの真横につい先程までレンズがガッチリと握っていたはずの木刀が落ちたのだった。

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