第16話 8-1.試験勉強を始める

 六月下旬から郵政外務員試験の勉強を始めた。試験当日まで、二ヶ月しかない。

 同じ問題を、答えを記憶するほどに繰り返し解いて、点数を少しずつ上げていく方法を取った。

 試験範囲は一般常識的なことだが、歴史、文学、政治、経済、と幅広く、覚えきれないほどあり、チラシの裏などに重要事項を書いて壁に張り付けるなどして、どうにか覚えようとした。


 午前中、仕事に行くまでの時間を勉強に費やすこととなった。

 夏になり、店の野菜の品揃えも変わっていった。

 モロヘイヤ、という独特のぬめりを持つ夏の葉物があることを知った。エジプト原産。クレオパトラも好んで食べた、と言われる。暑さに強い作物で、ぬめりがあるので汁物に入れるとおいしく、夏バテ予防にもなるようだ。

 パイナップルも店頭に並び、賑やかさを増していた。

 梅の季節が終わり、スイカが店頭に出てきた。山形・尾花沢の名産のスイカから、地元の京都・上賀茂でとれた大小様々な形のスイカまで、色んな産地のスイカが並んだ。


 和彦は店の片付けをするうち、溝口さんや社員の青山君の許可を得て、売れ残りの野菜や果物を持って帰れるようになった。

 溝口さんによると、本当は持って帰ってはいけないらしい。売り物にならない商品は、捨てるか、さもなければ、買い取らなくてはならない。そうでないと、売れなければ持って帰れば良い、と安易な気持ちで仕事をすることになる。

 大手スーパーほど厳しく、年々、そうした考え方で商品や従業員の管理をしているスーパーが増えているそうだ。

「売り上げを上げるためには良い考え方やけど、環境には良くないやろうな。十分食える物でも捨てなあかんのやからな」


 和彦は午前中を家で過ごし、前日持って帰って来た野菜を使って昼食を調理して食べてから出勤する。

 和彦の料理は野菜を適当に切って、フライパンに油を敷いて炒めるだけ。調味料も使わず、人参も大根もトマトもピーマンもきゅうりもレタスも、全部一緒くたに炒める。少々固くても、食べる。

 旅行中は市場で人参や大根、かぶを買って、生でかぶりついていた。野菜本来の味が分かるので、好きな食べ方だった。


 無農薬や有機栽培の野菜というのは身体に良いだけでなく、どんな食べ方をしてもおいしい。

 和彦の店では曲がったきゅうりも店頭に並べるが、曲がり過ぎたり、形がいびつなきゅうりは値引いても売れる見込みがないため、持って帰るが、信じられないほどに味が濃い。

 形が悪いだけで半額になったトマトをまとめて箱買いして帰り、毎日食べているが、食べるほどに体に活力が漲ってくる感じだ。


 上賀茂のスイカ作りの名人の大山さんがいつも、納品に軽トラックで自ら出向いて来る。

 スイカ、きゅうりなどのウリ類が多く、自然農法なので曲がったり、と形はまちまちで、スイカも大小さまざまだが、味は絶品だ。

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