第55話 少女

森を抜けるためさらに進む。生き物一つの声もしない中、後方で冒険者の騒がしい声がした


「ダニエルさん、あんなところに小さい女の子が・・・」


とある冒険者が少女を見つけダニエルに報告する


「迷子なのか。他に人は?」


顔を手で隠し、うずくまっている迷子の女の子のようだ。その発言をきっかけに他の冒険者も興味本位で迷子のような少女に近づく


「こんなところに一人でか・・」


ダニエルはそんな不自然な状況に危機感を覚える


「お前ら、今すぐそいつから離れろ」


「ああああああああ」


断末魔が鳴り響く。ダニエルの忠告もむなしく、少女に近づき手を差し伸べようとした冒険者は一瞬で弾け血しぶきになった


「なっ、なんだ・・・こいつ」


その場面を見た冒険者たちは何が起こったのか理解できていない。しかし、目の前にいる返り血を浴びた少女がおぞましい生き物であるということは明確だ


「早く陣形を取ってください、リーダーを中心に」


あまりの恐怖に腰を抜かし、逃げることのできない冒険者から次々と首が飛んでいく


「不法入国者たち、死ぬ覚悟はできてるよね」


おぞましい少女は最初に発した言葉に冒険者たちは戦慄する


「なんでだよ、吸血鬼の女王は死んだって。国は滅亡したって・・」


「滅亡したよ。でも新しく国ができたの」


会話と同時に人間を殺める。少女はこの状況を楽しんでいるかのようだ。ダニエルはそんな最悪な状況の中一つの決断をする


──巨大人間──


「スキル持ちなんだ。ただ的が大きくなっただけだね」


ダニエルはスキルを使いおよそ8メートルの巨大化に成功する


「お前ら逃げろ。こいつは化け物の中の化け物だ。俺が時間を稼ぐ」


この少女に勝つことなど不可能だろう。それでもみんなを逃がす時間は作れる


「化け物だなんて。アリス傷つくなあ」


手には一つのナイフ。この武器だけで冒険者の防具の隙間を切り裂いていったのだろうか


「お前はなんて生き物か教えてくれるか」


「一応人間だけど。それと逃げた人から殺してくね」


「はっ、そんなこと俺がさせ──」


──潰れて死んで──


少女から発せられた言葉通り逃げていく冒険者がペシャという音とともに跡形もなく砕け散る。今生き残っているのは立ち向かったダニエルとマルコスだ


「あ・・ああああああ」


時間を稼ぐことすらできなかったダニエルは絶望とともにアリスによって気絶させられた


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る