第49話 タタラの棲家
ノルン共和国では冒険者たちが王国からのクエストという前代未聞な出来事に大きく盛り上がっていた。次から次へと旧吸血鬼の女王の支配領域に足を踏み入れていく
しかし、目先の利益にとらわれず慎重に行動する冒険者もいた
「あーしんどいリアム休暇しよう」
「なに言ってるんだアリシア、お前はほとんど歩いてないだろうが」
リアムは二人の女性を抱えながら空中を移動している。周りから見たら少し変な状況だ
「ねえ。まだなの~」
「あと少しで着く。我慢しろ」
S級冒険者パーティータタラの棲家はイビルス周辺にあるダンジョンへと向かっていた
「ぐかあー」
相変わらずメンバーの一人、ソフィア・バレンタインは眠っている
普通、ノルン共和国からここまで歩いて一年ほどの距離になる。しかしリーダーのリアムはスキル──高速移動──を持っている。そのためアリシアの飛行魔法と合わせておよそ二時間でここまでアリシアとソフィアを運んできた
「あんたに抱きかかえられながら移動するのも疲れるのよ」
「次は放り投げてやる」
とは言いつつもリアムはアリシアとソフィアを丁寧に地面に下ろした
「はあ、やっと着いた」
「ほら、あそこにダンジョンの入り口がある。とっとと進むぞ」
ダンジョンには国宝級の魔道具があることもあり、冒険者にとってなかなか興味深い場所だ
「ソフィア、入り口はそっちじゃない。こっちよ」
入口の丁度横に向かって歩き続ける。常に眠っているソフィアは仲間の指示という聴覚だけを頼りに行動する。アリシアが魔導士、リアムが戦士そしてソフィアは不明だ
「えっ?なにこれ・・・」
入った途端、魔物の死臭が充満していた
「ダンジョンに入ったはいいけど、これ誰かに先荒らされてない?」
「ああ、魔物の死体を見るにその説が高いだろう」
この情報仕入れてから最速で来ることができる人間は俺たちか、勇者パーティーの二つ。しかし勇者パーティーは別任務なはず。つまり魔族が荒らしている可能性がある
「ねぇ、今奥の方から笑い声聞こえなかった?」
「いや、俺は聞こえなかった」
「嘘でしょ、ソフィア聞こえたよね」
アリシアはソフィアの頭を押さえて頷いたようにさせる
「うん。きこえた」
「ソフィアで遊ぶな」
アリシアは腹話術のようにソフィアを使うがリアムに注意されてしまう。拗ねたアリシアはソフィアと手をつないで先に行ってしまう
「ちょっと待たんかい」
「だって聞こえたもーん」
恐らくアリシアが聞こえたのは間違っていないかもしれない。とすると注意する相手は魔族で間違いないな
「ねぇ・・・二人とも」
「「え」」
「んー、はぁあ・・・この先ヤバいかも。危機的本能で目、覚めた」
基本目覚めることのないソフィアが大きなあくびとともに目を覚ます。久しぶりの目覚めだったので目の周りが重く目をこすり始めた
「ソフィアが目を覚ますってことは相当まずい状況かもな」
恐らく魔王幹部クラスの化け物がいる可能性がある
「ねぇ、引き返そうよ」
「アホか。出口探さないと出れないわ」
ここのダンジョンは少し特殊で、広いエリアとその間をつなぐ細い複数の道で構成されている。次に進むべき道は七本。向こうが通った道かつ行き止まりがなければ、他のダンジョン攻略者と遭遇することはない
「ねぇリアム、私が道選んでもいい」
「構わないけど」
「じゃあここ」
アリシアが選んだ道は真ん中の道だった
「選びたいとか言った割には普通な選択だな」
「やっぱりこういうのは変な道を選ぶと良くないことが起こりそうじゃん」
なんとなくアリシアの言いたいことは分かった。ただ敵を避けることも大切だが成果も大切な課題である。敵と会わないように財宝をかっさらうのがベストだ
「ソフィア、そっちは壁よ」
「あっ、間違えた」
「いや、お前はもう起きてるだろうが」
ソフィアは寝ているからという理由ではなくそもそもが問題なのかも知れない
「おい、やっとモンスターの登場だぜ」
目の前に現れたのはガーゴイルの群れ。準備運動すらできなかった俺たちには丁度いい相手だ
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