第42話 エミル・レフィーヤ

お兄ちゃん助けて〜アリス芋虫触れないよぉ〜


アリスは床に手と膝を付け思考を停止させている。もはや外にいる魔獣を想像することすら憚れる


「あの、誰かがあの虫と戦ってるみたいです」


レオは窓の方を指差してアリスに報告する


「え」


なんて素晴らしい方なの。お願いだからやっつけて・・・その間アリスはこの部屋の中で隠れているから


ガチャっとドアの開かれる音がした


カレンも虫が怖くて来たのかな。もしそうなら凄く可愛い


「カレン、仕事終わっt───」


「───ア・・アリスさん・レオ・・にげ・て・・・」


「カレン!?」


剣がカレンの腹を貫いている。歩くのがやっとのようで床には大量の血だ


「ねぇ、なんでこんな所に人間がいるのかな」


「カレンっ、しっかりしろ」


なんなのコイツ、いや私がもっと注意していれば・・・


「殺す───」


ガシャン


「はっ」


耳の長い女戦士が窓を突き破り豪快に登場する。通常状態の魔王エミル・レフィーヤだ


「エルモア、この人間は不法侵入者ですわよね」


「はい、間違いないかと」


イレギュラーか。カレンはなんとかなるとして・・・


「レオ、カレンの手当てをお願い。アリスはこの失礼なエルフを殺す」


しかし、カレンやレオたちがいる前では使えない・・・普通に戦うしかないか


「人間が魔王の領域に踏み込んで生きて帰れると思わないでください」


腰に掛けた剣を抜きアリスへと向ける


派手に登場したかったとはいえ、窓ガラスら割ったの後でルミナに怒られそう。でもこの人間どもを殺せば許してもらえるかな


「エミル様、この程度の人間、私にお任せください」


エルモアは人間ということで相手を甘く見て自分一人で十分と進言する


「分かったわ、じゃあお願────」


はやっ


二人の余裕なやり取りもアリスの異常な速さに虚を突かれる


「え」


敵はおよそ7、8メートル程の距離を一瞬で詰め、エルモアの首を掻き切ろうとした。しかし、間一髪私の剣が届いた


「あれぇ、部下に任せようとしてなかったかな」


なんだこの人間、明らかに動きが化け物だ


「エルモア、引きなさい。ここは私がやります」


それにしても相手は二刀流・・・見たことない剣と構え


「なかなかやりますわね」


何度も相手の懐に入ろうとするが全ていなされる。全く私の剣が届かない。それでも相手の攻撃もあと一つ足りていないようで、戦いは混戦となっている


「終わりだよ」


アリスの口元から不吉な笑みがこぼれる。エミルは負けまいと力任せに剣を振り下ろした


「え」


アリスは片方の剣を地面に突き刺してエミルの剣を抑える。そしてがら空きになった正面に潜り込み・・・


まずい・・・・


「そこまでよアリス」


アリスの剣が丁度、エミルの首元でピタリ止まった


「ル・・ルミナさん?」


いったいどういうこと。ルミナとこの人間が知り合いなの


「ありがとう、リオ。ここまで連れてきてくれて」


「はい、お忙しいそうですが私はこれで失礼致します」


ルミナはまだイビルスから帰ってきてなかったの。いやそんなことよりこの状況が全く掴めない・・・


「遅かったじゃんルミナ、あと少しで殺すとこだったよー」


アリスは剣を下ろしカレンに駆け寄る。幸い不死鳥のおかげで命に別状はないようだ


「いったいどういうことですか、ルミナさん。説明を・・・」


「ごめんなさいエミル、内緒にしていたのだけれど───」



事情はなんとなく分かった。エルモアの失態と相手側のミスということでお互い様という結論に至る。しかしアリスという少女は本当に人間なのか疑わしいほどに強かった

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