第53話 決断

「とりあえず、ボクはご飯食べてくるね〜 お疲れ様〜」


「ああ、お疲れ」

 

 俺と可憐デュオモードのランキング戦を数時間やっていると、6時が過ぎたので一旦解散した。


「ん〜 サポートね…… 誰かフリーな元競技勢の人とかいないかな」


 俺は世界大会に出場したことのある選手は知っているけれど、アジアリーグに昨年出たが通過できなかった競技勢の人とかは全く知らない。


 SNSや出場チームまとめブログの過去記事を漁ったが、条件に合うような選手は見つからなかった。


「ん〜 まあ、とりあえず水曜日くらいまで探してみて無理そうだったらSNSで募集かけるしかないか〜」


 俺は諦めてSNSを閉じて、ベッドに横たわった。


「彩音は…… まだ早いな……」


 俺がそんなことを考えていると、母親からご飯ができたというメッセージがスマホに届いた。


 彩音に会うのは少し緊張するけど、お腹も空いてきたし仕方ないので俺は部屋から出てリビングへ向かった。






 リビングに着くと、食事は用意されていて母さんと彩音はテーブルに座っていた。


「あ、お兄ちゃん ドレッシングとってきて〜」


 俺が冷蔵庫から水を取り出そうとすると、彩音はそう言った。


「わかった」


 俺はドレッシングと水を持って、彩音と母がご飯を食べてる場所に向かった。


「はいよ」

 

「ありがと〜」

 

 彩音は俺に感謝を伝えて、サラダにドレッシングをかけた。


(なんか、別にいつもと変わらないな…… 俺さっき彩音にキスされたよね??)


 そのまま何事もなく食事は進んで、気づけば晩御飯の生姜焼きを食べ終わっていた。


「ごちそうさま〜 美味しかった〜」


「ごちそうさま」


 俺と彩音は食器を食洗機に入れた。

 俺はスマホを持って、ソファーに座ると隣に彩音が座った。


「何見てるの??」


「メンバーの候補を探していてな…… 俺と可憐しかまだ決まってないから、あと2人必要でさ」


「なるほどね〜」


 そんなことを話していると、母さんはお風呂の準備のためにリビングを出た。

 俺は母さんがいなくなったタイミングで、彩音にさっきのことを聞くことにした。


「あのさ…… さっきのあれって……」


 俺が彩音に質問すると、彩音は顔を赤くして後ろを向いた。


「あれは…… その…… えっと、ちょっと精神的におかしくなっていて…… そう!! この間の見た恋愛ドラマの再現をしたの……」

 

「お、おう…… そうだったのか……」


(なんだ、ドラマに影響されただけか……)


 やはり俺が深く考えすぎだったみたいだ。

 早とちりで告白しなくてよかったと俺は心の中で思った。


「ネタバレしない程度に内容を言うと、目の見えない妹が医者のお兄さんのおでこにキスした次の日、手術で治ったっていうお話なんだよ〜」


 彩音はそう言ってスマホ画面を俺に見せてくれた。

 タイトルは『不治の病』、インキャオタクの俺でも知ってるくらい有名な女優と俳優が主演のドラマだ。


「これか、最近ネットで流行ってるやつね 主題歌は聴いたことある」


「お兄ちゃんも見たことあるの??」


「いや、俺は見たことない 曲を動画サイトで聴いたことある程度」


「そっか〜 なら無料配信サイトで全話見られるから、時間ある時一緒にみよ〜」


 彩音は俺に配信サイトのリンクを送ってくれた。


「まあ、世界大会予選とか終わってからかな」


「うん!! 」


 そんな会話をしていると、母さんがリビングに戻ってきた。


「お風呂沸いたわよ、彩音」


「わかった、んじゃあお兄ちゃん 肩貸してもらってもいい??」


「ん、ああ…… いいよ」


 俺は肩を貸して、彩音と一緒にお風呂場の前まで行った。


「痛みはどうだ?? 落ち着いてきたか??」


「だいぶ良くなったよ〜 だからお風呂入る!!」


「そっか、まあ無理すんなよ」


 俺はドアを開けて、彩音を脱衣所の前で下ろした。


「何かあったら、風呂にある呼び出し機能で母さんを呼べよ」


「うん」


「んじゃあ、俺は彩音が上がったら入るから部屋に戻るね」


 俺がそう言って脱衣所を出ようとすると、彩音は俺の袖を引っ張った。

 

「あのさ…… お兄ちゃん」


「ん、どうした??」


 彩音は、目を逸らしながら俺に何か言おうとした。


「私ね…… お兄ちゃんのことが、す…… いや…… なんでもない、ごめんね…… 呼び止めて」


 彩音は、俺の袖から手を離した。


(そっか…… 彩音……)


 おそらく、彩音は俺と同じ状況なんだと思う。

 俺たちは義理とはいえ、兄妹であり家族だ。

 

 都合のいい解釈だが、彩音も俺のことが好きだと言うことを確信した。

 今すぐにでも俺の気持ちを伝えて、楽になりたい。

 俺はそう思って口を開く直前、俺が可憐を誘った時のことや、毎日死ぬ気で戦ってきた日々のことが頭をよぎった。


 病院に入院している彼女を俺が、無理やり説得してまで仲間に引き込んだ。

 それに俺は、世界大会で優勝するために全てを捧げてきた。

 アジアソロ最強という称号を持つのにも関わらず、彩音やグランディネアには負けて、称号を持つ資格がないと最近自分でも思ってきたので更なる力が欲しい。

 

 確かに、俺は彩音のことは心の底から好きだ。

 でも、俺はこんなところで終わるわけにはいかない。

 俺は、世界最強になるため生きてきた。

 この信念を失ったら、俺は一生後悔するような気がする。


 だが、彩音をここで振って関係を悪化させるのも嫌だ。


 俺は心の中で考えた結果、1つの答えを導き出した。

 

 

「彩音…… 俺たちはさ、兄妹だ それに俺は世界大会で優勝したい」


「……うん、そうだよね…… ごめんね、変なこと言って」


 彩音は泣きそうになりながら、下を向いた。


「でも、俺はお前のことを大切に思っている」


「うん……」


 俺はそう彩音に言って、彩音の前髪を手で持ち上げておでこにキスをした。


「お、お兄ちゃん……」


「もしも気持ちが変わっていなかったらさ、世界大会が終わってから続きをしよう」


「うん……!! 待ってる!!」


 俺は彩音にそう言って、脱衣所を出た。







※後書き

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