第51話 見失っていた目標

 俺は自室に入って、ベッドの上で寝転がった。


「彩音って、俺のことをどう思っているんだろうな……」


 思わず独り言を言ってしまった。

 実際前に、匂わせのようなことを言っていたので都合よく解釈すれば両思いなんだろう。


 だが、スマホで調べてみたら額へのキスは恋愛感情というよりも、友情という意味が大きいらしい。

 俺の恋愛系知識は、少し触った程度のギャルゲーやアニメの知識しかないのでわからなかったが、恋愛ドラマとかみてそうな彩音は意味を理解してやったのかもしれない。


「まあ…… もし、仮に彩音に気持ちがあるなら嬉しいな」


 俺が1人で盛り上がっていると、誰かが俺の部屋のドアを開けた。

 彩音だと思って、振り返るとそこには母さんがいた。


「なんだ、母さんか」


「彩音の怪我は、大丈夫なんだよね」


「いや単なる靴擦れだから、大丈夫だと思う それに俺は医者じゃないからわからない」


 俺が母さんに大丈夫だというと、母さんはほっとしたような表情をした。



 彩音は元気で風邪や怪我を俺の家にきてから、俺の知る限りでは一度もしたことがないので体調不良の彩音に対してどのように接するのか分からなかったが、娘のように心配していた。


 俺は彩音のことを心配する母を見て、なんとなく嬉しかった。


「それより悠也、彩音とショッピングセンターに行ったみたいだけど 家までどうやって帰ってきたの??」


 彩音は母さんに、俺がおんぶしたことを言っていなかったのか不思議そうな表情を浮かべていた。



「あー 家の近くで靴擦れしたから、肩を貸した」


 俺は彩音をおぶったことを母さんには言わずに嘘をついた。


「そう…… ならよかったわ」


 母さんはそう言って、俺の部屋のドアを閉めて1階への階段を降りた。




「よし、まあ気分を落ち着けたい時はこれだな……」


 俺はゲーミングチェアに座って、ゲームを起動した。

 可憐がオンラインだったので、俺はオンライン状態を一応隠して可憐のいるプライベートルームに入った。


「ん…… あ、悠也じゃん おはよ〜」


「おはよ なんか可憐に本名呼びされるのって、新鮮だな」


 俺はアサルトライフルを持って、移動する的を目掛けて撃ってエイムを温め始めた。


「可憐ってさ、恋したことある??」


「ないかな〜 どうしたの急に」


「あ、ラリーと仲良かったけど 恋愛とかはないんだ」


 俺はてっきり、ラリーと可憐は恋愛していると思っていた。


「ラリーは恋人ってより、パパかな〜 好きってより憧れ」


「そうか、まあ確かに10歳くらい離れてるしな」


 ラリーは現在25歳、俺たちは誕生日が来てないので15歳だから10歳も離れている。


「ボクに恋について聞くってことは、もしかして悠也は恋してるの??」


「……まあな」


「なるほどね〜 ボクは恋とは無縁の人生で、よくわかんないけど相談に乗るよ」


「助かる……」


 可憐はそう言って、エイム練習をしている俺のアバターの後ろにある椅子に座った。


「彩音ちゃんのこと、好きでしょ」


「……は??」


 俺は誰にも言ってない、彩音のことを好きだという気持ちを可憐は見抜いた。

 

「いや…… 彩音は妹だし、妹は恋愛対象にできないよ……」


「でもあれでしょ、昨日有栖ちゃんが言ってたけど 悠也と彩音ちゃんは義理の兄妹なんでしょ??」


「……聞いたのか」


「いや、ボクは別に聞く気はなかったよ 有栖ちゃんと2人で昨日練習してた時に、彩音ちゃんと悠也って何歳離れてるの??みたいなこと聞いたら、流れで教えてくれた感じ」


「そっか……」


 俺はアサルトライフルを空中に投げ捨てて、エイム練習をやめた。

 アサルトライフルは消滅して、命中率のスコアが俺の画面に表示された。

 

 命中率92%、いつもは100%だが今日はスコアが少し低かった。


 俺はため息をついて、可憐の横に座った。


「どうすればいいんだろ」


「いっその事、告っちゃえ〜」


「いや、振られた時にガチで人生終わるからそれは無理」


 確かに彩音のことは好きだけど、さっきのキスが単なる俺に対してのスキンシップで恋愛感情が全くない場合、兄妹の関係は崩壊しかねない。


「まあ、悠也がもしも大学とかで一人暮らしとかになったとしても3年は同じ家で暮らすもんね 下手に動いて関係を崩したくもないっていうのもわかるよ〜」


「そこなんだよな、だからどうしたらいいんだ……」


「ん〜 とりあえず彩音ちゃんと悠也の日常生活が、どんな感じなのかわからないからアドバイスしようにもできない」


「彩音とは普通だよ、普通」


「その普通っていうのがわからない」


「そうか、なら少し話すよ」


 俺は彩音と毎日一緒にご飯を食べたり、今日出かけたりしたことを可憐に話した。


「確かに思春期の兄妹ってより、恋人に近いかもね」


「……ああ」


「まあこんなに仲良いなら、告白してもいいかもだけど 今はあまりおすすめしないかな〜」


「それはどうして??」


 俺が可憐に質問すると、可憐は呆れた表情をした。


「あのね、一応次のスクリムまで1ヶ月切ってるんだよ〜 ボク達まだ2人しか集まっていないんだけどさ、残り2人はどうするの?? もしも振られて悠也が病んだら大会に出られないよ」


「あ……」


 俺は可憐に言われて、目が覚めた。

 彩音のことでいっぱいで、俺はまだメンバーが2人しかいない現実を忘れていた。


 

※後書き

読んでいただきありがとうございます!!

よろしければ、左上にあります星をクリックや感想、ブックマークをしていただけると今後の活動の励みになります!!

https://kakuyomu.jp/works/16817330654169878075#reviews

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る