第40話 束の間の春休みその二


話中に聞いた事のあるワードが出て来ますが、現実の組織、団体とは一切関係ありません。また一部分詳細に書かないが故に説明不足を感じる方もいると思いますが、ご了承願います。

宜しくお願いします。


―――――


 翌日、朝ぐずる真理愛を何とか帰らせる事が出来た。勿論駅までは一緒だ。絵里との待合せは午前十時、デパートある駅で待合せている。


 真理愛の家の最寄り駅までは学校方向に五つ、そこから俺のマンションの方向へ戻って来て九つ。そこがデパートのある駅だ。


 朝から大変な移動だが、仕方ない。今日はジョギングをしなかった。昨日朝から真理愛に求められ、流石に二人共、体が動かなくなったのは午前零時過ぎだった。流石に疲れた。


 目覚ましを三か所もして何とか午後六時に起きて再度シャワーを浴びようとして、また真理愛に求められた。

今度は簡単に一回だけしてあげて真理愛も起こし、一緒にシャワーを浴びて、朝食を摂って送って行った。女性という人間はあれが心の精神安定剤なのだろうか。


 心と感情については、物理学と哲学の間で何回も論争が起きているが、何も証明されていない。宇宙論の方がよっぽど簡単だ。


 そんな事を考えているとホームから降りるエスカレータに乗っている絵里を見つけた。いつもながら凄い美少女だ。エスカレータに乗っている人や彼女の傍をすれ違う人のほとんどが彼女に視線を送っているのが良く分かる。


 俺なんかより彼女に相応しい男はいくらでもいるだろうに。でもそんな事言うと俺の股間を蹴ると言って実際に蹴って来たな。あれはどういう意味だ。


 俺を見つけたようだ。手を振って近付いて来た。

「悠、待ったあ」

「今来た所だ」

 本当は二十分前に着いているが。


「ふふっ、良く出来ました。じゃあ早速映画を見に行こう」

「映画?何かやっているのか?」

「映画はいつもやっているよ。見たい映画は季節性が高いけど。今は春休みだからあんまりないけど、ちょっと見たい映画が有ってさ」

「そうか」



 映画館のフロントに行ってやっている映画を確認すると

「悠、あれ見たい」

「あれ?」

 なんとアニメだ。


「悠は知らないかも知れないけど結構有名なんだよ。主人公の妹が口にきゅうりを咥えて、鬼退治する奴」

 俺は全く知らない。

「そうか、じゃああれにするか」


 チケット自販機に行って、座席指定をしようとすると

「ありゃ、ほとんど埋まっている。一番後ろか、前四列。どうする悠?」

「一番後ろにしよう」

 前の席だと首が疲れそうだ。


 飲み物を買って上映室に入ると結構埋まっている。まだ開演十五分前だというのに。

「流石人気あるわね。あっ、あそこ」


 俺の手をいつの間にか引いている。良いかこの位。


 一番後ろの列に座ると

「結構見晴らしいいね。スクリーンが大型テレビに見える」

 あんな大きなテレビ有るか。


 実質二時間の上映だった。

「面白かったねえ。主人公が剣を振ると水が出るとか。あれ消防に使えないのかな」

「絵里、夢が無いぞ」

「冗談。ねえお腹空いた。お昼食べよ。〇ックでいいよ」

「混んでいるんじゃないか」

「良いの良いの」

 何が良いんだ?


「悠、私席を取っておく。エッグレタスバーガーとポテトSそれにストロベリーシェイクね」

「分かった」

 俺の番まで二十人近くが並んでいる。これは待ちそうだな。



 二十分位待ってやっと買えると絵里の待っている席に行った。

「結構待ったね」

「仕方ないよ、こんなに一杯なんだから」


 俺はいつものダ○○バーガーとポテトLそれにコークLを食べながら絵里の顔を見ていると

「本当はね、お父さんに頼んで春休みの内に二人で温泉とか行きたかったんだ。勿論近場だよ。でも悠忙しそうだし。今日一日だけって言うし。だから今日はしっかりと付き合って貰うからね」

「分かった」

 明日は公安調査庁だが、大丈夫だろう。


「でも絵里、俺と二人で温泉なんて大胆なこと考えるけど、両親は心配しないのか?」

「だって、悠、何度も家に来ているじゃない。両親も悠の事良く知っているし。まあ万一有っても良いと思っているんじゃない」

「ま、万一?」

「そう、万一。悠。私もういつでも良いんだよ。どっちにしろ三年になったら告白しようと思っていたし。この前言ってしまったし」

「えっ!それどこで言ったの?」

「だから、高校卒業したら婚約して大学出たら結婚するって言ったじゃない」

「おい待て、俺はそんな事お前と約束した覚えはない」

「だからこれからするの」

「へっ?」

 こいつなんか変な事言っている。まさか俺の事本当に?



「なあ、絵里。良く考えた方が良い。確かにお前とは中学からの知合いで、お互いの事もそれなりに知っているし、俺も絵里の事は大好きだ。だけどそれは大切な友達としてだ。婚約とか、結婚とか、俺とそんな事したら苦労するだけだぞ」


「いいよ、悠と一緒なら」

「…………」


 俺は何処で絵里を見誤っていたんだ。俺をそんな風に見ているなんて。


「もし、悠がいいなら今からあなたのマンションに行っても良いよ。意味分かるよね」

「いやそれは」

 今日の朝までの事もある。するしないじゃなくて今来られては困る。


「いいじゃない」

「レポートで忙しかったんだ。汚いから今度な。あっ、するとかじゃないぞ。絵里が来るのは歓迎だけど」

「私が掃除してあげる」

 不味い。


「絵里、せっかく会えたんだ。公園でも散歩するか。暖かいし」

 絵里は俺の顔をじーっ見ると


「いいわ。真理愛さんのもの残っているの?」


「ソンナコトナイヨ」

 手にあるポテトを落としてしまった。


「ふふっ、図星ね。彼女の事そんなに好きなの?」

「…………」

 やっぱり。


「何が有るの。彼女と悠の間に」

「今は話せない。時間が必要だ」

「じゃあ、絶対に教えてね」

「…………」


「絵里、公園に行こう」

「うん」


 〇ックを出て左にUターンして少し歩いて川べりに出る。小さな公園と川沿いに遊歩道がある。


 二人でのんびり歩いていると

「綺麗だね。太陽が真上にある」


 っ!


 俺は反射的に絵里を突き飛ばし、自分も反対側に飛んだ。


 キン。


 石に何かが当たった。同時に俺の体が誰かに覆い被さられた。そして


 パン、パン。


「直ぐに二人共こっちへ」


 絵里は何が起きたか分からなくて動けない。俺は絵里を強引に抱きかかえると必死に走って橋の橋脚の下に隠れた。男が銃を持って橋脚の陰から見ている。

 そして、俺達に声を掛けた男がイヤホン一体型のマイクで

「ターゲット橋の上、確保しろ」


 俺は何か分からず、絵里はただ怯えていた。


「坂口さん、残念ですがデートは終わりです。直ぐにご自宅まで送ります」

「えっ!」

 直ぐに理解した。公安警察だ。俺をガードしてくれている。


「分かりました。絵里行くぞ」

「う、うん」

「走りますよ」


 必死に走って、橋の上からは見えない所まで来ると

「車に乗って下さい」

「はい」

 絵里が怯え切っている。


 車に乗って落着くと

「悠、どういう事?」

「今は説明できない。俺より絵里を先に送ってくれ」

「もちろんそのつもりです」


 絵里を自宅まで送った後、俺のマンションに向いながら住吉さんから連絡が入った。


「坂口君、危なかったようだな。君達を狙ったのは神門組だ。これであそこを潰す良い材料になった。ただ当面、公安警察とは別に、君に分からない様に公安特務員を付ける。

 今の君は国家レベルの重要人物という事だ。分かるよね。まあ、二週間もしないで掃討も終わるだろう。それまで我慢してくれ」

 住吉さんと話している内にマンションに着いた。


「では、今日から警備に入ります。ジョギングするのも買い物に行くのも自由です。ご迷惑はかけません。ではこれで失礼します」


 俺が降りた後、車は去って行った。急いで自分の部屋に戻ると体に震えが来た。


 本当に狙われていたとは。


 今日はもう寝よう。明日からまた数日公安調査庁だ。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。

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