第12話 変化は気付かない内に始まる


 俺、坂口悠。二年になった。早く卒業したいが仕方ない。下駄箱で履き替えて掲示板に行って見た。


 出来れば友恵と一緒のクラスになりたい。自分の名前を探すと2Aだ。あっ、絵里も同じだ。またか。友恵は…と、えっ2C。そう言えば全然勉強姿見て無かったな。


 ついでだ。あっ芳美も有った。進級出来たんだ。2Cか少しは勉強しているんだ。今度一緒に稽古でもするか。でも全然武道場に来ている様子無いけど、辞めたのかな。


 俺が掲示板を見ていると

「悠、私2Cだって。ごめんね。もっとちゃんと勉強すればよかった」

「いいよ。今年から教えてあげる」

「ほんと、嬉しい」

 俺の腕に抱き着いて来た。


「おい、やめろ」

「いいじゃない。もう」

「…………」

 あんまりこういう悪目立ちはしたくないんだから。ほら見ろ周りが好きな事言っている。



 早速二年生の教室がある二階に友恵と二人で上がった。友恵は階段を上がって左に行く。俺は右だ。

「悠、じゃあまた放課後ね」

「ああ、分かった」


 教室に入ると直ぐに絵里が俺の所にやって来た。


「悠、朝からお熱いのね。でもほどほどにしなさいよ。あんたの経歴に傷がつくような事があると不味いんじゃない。三学期はボランティア活動の参加も少なかったでしょう」

 確かに。二学期まではしっかりと参加していたが、三学期は友恵に付き合いっぱなしだった。


 絵里と話しているともう一人やって来た。

「坂口君、嬉しいわ君と一緒の教室に慣れて」

「…………」

「私の名前忘れたの?酷い。工藤真理愛よ」

「いや、忘れてはいないが」

 なんでこの人が俺の所に挨拶に来るんだ。絵里以外の人は俺を怖いもの扱いにしかしないのに。


 予鈴が鳴って新しい担任が入って来た。


「私は、担任の加藤千賀子(かとうちかこ)です。紹介は後にします。全員廊下に出て。体育館で始業式を始めます」


 がたがたとみんなが出て行く中で絵里が、

「悠、後で話しが有る」

「なんだ?」

「だから後でよ」




 体育館の始業式が終わり、教室に戻って席に座っていると新しい担任の加藤先生が入って来た。黒色のスーツ姿でむっちりぼいん、眼鏡を掛けて髪の毛が肩まであるアラサーだ。


「改めて自己紹介するわね。加藤千賀子よ。一年間君達の担任になります。早速だけど席替えするから。廊下最前列からこの箱の中の番号札を引いて」



 みんなが担任に言われた通り順番で箱の中から番号札を取る。取った全員が一喜一憂している姿が面白い。席なんてどこでも良いだろうが。



 俺の番になった。残りは一枚だ期待する事もない。引くと窓側二列目一番後ろだ。ここの右隣りだ、悪い席ではない。

 春休みに入る直前に貰った教科書はもう全部目を通してある。何処に座っていても同じだ。


 俺は、新しい自分の席に行くと


「悠、隣になったわね」

 なんと絵里が俺の右の席になった。やはり席は何処でも良い訳では無い様だ。


「坂口君、宜しく」

 左の席を見ると工藤真理愛が座っている。くそっ、これで一年間我慢するのかよ。



「ねえねえ、友坂さんと工藤さん。わが校の美少女No1と可愛い子No1があの坂口君の両隣りよ。大丈夫かしら」

「だよね。坂口君、目付き悪いし。なんか喧嘩強そうだし。それに陰キャだし」

「私達は近寄るの止そう」

「うんうん」


 おい、俺に勝手にレッテルはるな。確かに目付き悪い、喧嘩は強い、でも無口なだけで陰キャじゃないぞ。

 それに襲われるのはどう見ても俺の方だろうが。



「悠どうしたの」

「なんでもない」

 友恵、どうしているかな。

 


 その頃、


「高橋さん、城之内です。同じクラスになれてよかった。これから宜しく」

「あっ、はい宜しく」

 悠から比べれば中身まるでなさそうな男、嫌になる。


「高橋さん、俺、片角岩男(かたづみいわお)。これから一年間宜しく」

 こいつはちょっとイケメンだけど。視線が私の胸にしか来ていない。気持ち悪い。


 あーあ、しっかり勉強しておけばよかった。そうすれば悠と同じクラスになれたのに。でもいいや、毎日会えるし。


 そう言えば、図書委員誰か新しく入ってくれないかな。悠と付き合っていない時は、あそこも居心地よかったけど、今は誰かと交代で受付したいな。そうすれば悠とその日はずっと会っていられる。



「高橋さん、今日懇親会しようと思うんだけど来ない?」

 クラスの女の子が声を掛けて来た。


「うーん、ごめんなさい。ちょっと用事が有って」

「そうか、仕方ないね。じゃあまた今度ね」

「誘ってくれてありがとう」


 懇親会なんか興味ない。図書室は明日から開けるから今日は悠に一杯して貰うんだ。さっ、早く下駄箱に行かなくちゃ。



 

 俺、坂口悠。始業式の日は授業は無い。直ぐに席を立って帰ろうとしたところで声を掛けられた。

「悠、今日朝声掛けた事なんだけど、ちょっと良いかな」

「何か用か、急いでいるんだが」

「その急いでいる事に関係あるんだけど」

「時間かかるのか」

「少しだけよ」

「じゃあ、簡単に言ってくれ」


 絵里は急に小声になって

「高橋さんにはあまり深入りしない事ね。注意したわよ。気を付けてね」

「どういう意味だ?」

「言葉通りよ」


 それだけ言うと絵里は帰って行った。どういう意味なんだ。友恵が何かするというのか?


 俺はそのまま下駄箱に行くと友恵が待っていた。

「悠、帰ろ」

「ああ」


 校門を出ると俺達は自然と手を繋いだ。

「ふふっ、嬉しいな。ずっとこうして居ようね」

「ああ、俺もそうしたい」

 友恵と仲良くなってから、確かに言葉に対する感情が薄らいで来た。あの時を思い出してしまうと体が異常に拒絶反応を示すが、家庭とかいう言葉だけなら気持ち悪さがだいぶ遠のいた。これも友恵のお陰だ。



 四月中はいつもの様に会った。勉強しようと行っても友恵はどうもあっちを優先してしまう。何とかしないと来年もAになれないぞと言うと、まだ来年は遠いとか言って勉強の手が動かなくなった。




 GWはボランティア活動がある。基本毎週あるのだが、大規模な地域住民との合同は、こういった休みの日が使われる。


 俺は友恵と一緒にするつもりだったが、クラスで担当地域が別れてしまった。俺のクラスは近くに有る公園の草むしりだ。範囲が広いだけに大変で午前中いっぱいかかった。


 友恵は、地域住民の親と子供たちのイベントを手伝うらしい。


 午前中で終わったので、スマホで友恵に連絡すると、ボランティアは終わったけど、地域住民との懇親会が有るという事で今日は会えないと言って来た。

 まあ、初日なので良いかと思ってこの日は友恵と会う事を諦めた。




 私、高橋友恵。GWだというのにボランティア活動がある。うちの学校は定期的にこの活動をやっている。


 今日は、学校のある地域の人達と交流を深めるという事で、親子で参加した人達と子供を主体とした遊びをする事になっている。


 子供達と一緒に遊んだり踊ったりする。これはこれで楽しいのだけど、当然男子もいる。班分けで片角君と一緒になった。


 最初は真面目にやっていたが、片角君が子供達との遊びの時にやたら私にボディタッチしてくる。


 嫌になる。絶対わざとだ。時々胸を触られた時も有った。その時はごめんと言っていかにも申し訳なさそうに言っているけど本当はどうか。


 そんなボランティアも午前中で終わり、やっと悠と会えると思っていたら、参加した地域住民と打ち上げをやるというのだ。信じられない。


 はっきり言って参加したくなかったけど、先生から生徒は基本全員参加だと言われ仕方なく参加した。

 途中悠から連絡があったけど、懇親会に参加するから会えないと断った。


 三十分もすると段々帰って行く人達も出て来た。これだったら悠に連絡して会えるかもしれない。

 先生に言って帰ろうとした時、片角君が

「高橋さん、俺も帰るから駅まで一緒に帰ろう」


 駅まではどちらにしろ同じ道を歩かないといけない。悠には、こいつと別れてから連絡すればいい。だからこの位は良いかと思って

「良いですよ」

「じゃあ、帰ろうか」


 二人で他愛無い会話をしている時だった。

「痛い」

「どうしたの片角君」

「ちょっとお腹が、そこの公園で休ませて」


 一人で放っておくわけにもいかず、仕方なしに一緒にベンチに座った。

「高橋さん、ちょっとトイレに行きたい。一緒に来て」

「自分で行ったら」

「ごめん歩くのがきつくて」

「仕方ないなあ」


 近くに有る公園のトイレに連れて行った。最近は綺麗で防犯の関係でしっかりと施錠できる。一緒に中に入った時

「きゃっ」

「静かにして」

 口を塞がれた。


 逃げようとしたけど、力が違い過ぎた。強引にトイレの中に連れ込まれると

「騒ぐな。でかい声出すと殺すぞ」

 いつのまにか彼は手にカッターナイフを握っていた。


「静かにしてれば傷はつけない。その顔に傷つけられたくなかった後ろを向いてそこに手を付け」

「いや」


 顔の傍までカッターナイフが近づいて

「切ってもいいのか」

「駄目、止めて」

「じゃあ、俺のいう事を聞け」


 後はお定まりのコースだった。だけど……。

「ははっ、体は正直だな」


 心は嫌だって思っているのに何回もいかされてしまった。


 終わった時、

「ビデオもしっかり撮ったからな。明日も付き合えよ。今度はもっと優しくしてやる」


 ビデオにしっかりと映った姿を見て頷くしかなかった。翌日あいつの家に行くと一日中されてしまった。でも悔しいけど悠よりめちゃくちゃうまい。いろんな格好もさせられて何回もいかされてしまった。


「高橋、遊びと思えばいいじゃないか。そんなに感じているんだ気持ち良いんだろう?

 適当な時期に止めるからさ。坂口には黙っていれば分からない」

「嫌よ、もうこんなこと止めて」

「言う事聞けないならこのビデオ顔出しでネットに流すだけだ。なに一ヶ月も付き合ってくれればいい」

「絶対一ヶ月で終わるのね」

「ああ、嘘はつかねえよ。それに偶にはあいつの相手もすれば怪しまれねえだろう」

「分かった」


 そしてその次の日もされた。悠には翌日は疲れたからその次の日は家の用事が有ると言って断った。




 俺、坂口悠。翌日、俺はいつもの様に午前中武道場に行って、午後友恵が来るのを待った。午後二時になっても来ない。


 何か有ったのかと思ってスマホで連絡すると昨日のボランティアで疲れたから今日は休むと言っていた。それなら仕方ないと思い諦めた。


 俺は、明日から三日間学術委員会の小委員会に出なくてはいけないでの、GW中はほとんど友恵と会う事が出来なくなった。後は学校一日行ってから後の土日だけだ。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。


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