【全22話】師せる孔明先生、生ける屍(わたし)を甦らす

玄子(げんし)

第1話 序の口

「嗚呼、何ということだ!」

 西暦二三四年旧暦の八月、金木犀の香る頃。

 中国・五丈原にて。


諸葛孔明しょかつこうめい、敵ながら実に見事な人物だった。まさに天下の奇才なり!」

 魏の総帥である司馬懿しばいは、空を仰ぎながら感嘆を漏らすと、死しても尚、全軍を無事に帰陣させた蜀漢の丞相・諸葛孔明に敬服し

「半旗を掲げよ」

 追撃ではなく、追悼の意を示した。


 ー死諸葛能走生仲達(死せる孔明、生ける仲達走らす)


 五丈原に巨星が散ってから、どれくらいの星が流れたのだろう。


 彼らが命を懸けて戦った日々は、文字となり、歴史を刻んだ書物となった。

 だが、彼らの魅力は、あの広大な大地を有する中国大陸をもってしても収まるものではなかった。


 後世の人々に愛され続けた英雄達は、書物に身を潜め、時代と国境を超える船に乗りこみ、遣唐使によって日本に上陸した。


 その本の名はー


「三国志?」

 

 運命の人が、同じ時代の人とは限らないー。

 出会いは突然、再会になる。


 上中下の三巻からなるその文字だらけの本は、『三国志』と名乗るその本は、死の淵に迫りかけていた私の命を動かした。


 私が『三国志』と題された一冊の本と出会ったのは生死の狭間、ギリギリを歩かされていた、まさに危急存亡のときだった。

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