第12話 私、魔法競技会に参加します! パートナーは?

 1ヶ月後。スコラ・シャルロに入学した私は、元聖女という肩書かたがきを隠しながら、学生生活を続けた。


 ジェニファーのせいで、私にはクラスに友達がいない。ジェニファーは、私の悪いうわさを流しているからだ。


「ミレイアは、すぐ先生にチクる」

「ミレイアは、人の悪口を平気で言う」

「ミレイアは、暴力沙汰ぼうりょくざたを起こして、シャルロに編入した」


 などなど。


 ジェニファーはよくもまあ、こんな大ウソを流せるものだ。私は生徒一人一人に、訂正ていせいしてまわる気も起きない。


(面倒くさい)


 ジェニファーは、エクセン王国の軍隊指揮官という立場を利用して、国家予算も使いまくりだった。

 ブランド品を買いあさり、生徒たちにプレゼントし、自分の取り巻きにしていったのだ。


 ◇ ◇ ◇


「大切なお話があります」


 ある朝、朝礼で、ヤギのようなアゴひげの理事長先生が口を開いた。


「1ヶ月後に、この学校で、『スコラ・シャルロ魔法競技会』を行います。出場できるのは、『聖女』を目指す『聖女コース』、『魔法使い』を目指す『魔法使いコース』、『僧侶』を目指す『僧侶コース』に所属する女子です」


 うおおおっ……。


「今年もきたか!」

「やべぇ女の戦いが見れるぞ」

「弱肉強食の世界だ……」


 生徒たちは噂をし始めた。スコラ・シャルロ魔法競技会は、シャルロ王国国民にとっても、大きなイベントだ。学生が名誉をかけて魔法と術を駆使して、懸命けんめいに戦うのだから。


(注 スコラ・シャルロには、勇者、聖女を目指すコースだけでなく、魔法使いや僧侶を目指すコースもある)


 私、ミレイアも朝礼で理事長の話を聞いていた。私は「聖女コース」の女子だから、出場資格はある。


「戦いの模様は、魔導まどう飛行水晶球により、シャルロ全土に放送されます」


 スコラ・シャルロは超有名学校でもあるので、国民は興味津々きょうみしんしんだ。


「予選は出場女子生徒と、勇者コースの生徒がパートナーとなって、もう1組の生徒たちと闘います。1試合、2対2の構図になります」


 ええっ? パートナー? そんなのいないよ!


「今年も厳選された4組の生徒が、立候補、推薦すいせんにより、予選に選ばれます。自信のある生徒は、『勇者コース』所属のパートナーを見つけ、ぜひ、魔法競技会に出場してください」


 うーん……。私はちょっと出場をあきらめそうになった。


 理事長先生は話を続けた。


「では、今年の予選ルールですが」


 生徒たちは、興味深そうに理事長先生を見た。


「サバイバル方式で行いたいと思います」


 どよよっ……。


 そんな騒ぎ声が周囲に響いた。サバイバル方式? 何だろう、それ。


「予選A組の2チーム……計4人は、シャルロ王国東部、リリシュタインの森に入り、2日間戦ってください。予選B組の2組のチームは、シャルロ西部、アルダマールの森に入っていただきます。ルールは……」


・聖女はどんな魔法、術を使っても構わない


・聖女のパートナーの勇者は、魔力模擬刀もぎとうという模擬刀もぎとうを携帯、使用する


(注 魔力模擬刀もぎとうとは、刃の部分が鉄材ではなく、魔力の刃になっている。実際に体を斬らず、斬った部分に電撃が走る)


・聖女はどんな杖を使っても構わない


・森の中で2日間生活。その期間で相手を失神、まいったをさせれば、決勝進出


「ということです。では、参加希望者は先生に申し出ること。注意点としては、きちんとパートナーの勇者を見つけてから、申し出てくださいね」


 理事長先生はそう言って、壇上を降りた。


 ……パートナー……男子……。


 そんなのいるわけない!


 ◇ ◇ ◇


 放課後の教室――。


 私が魔法競技会の参加をあきらめて、りょうへ帰り支度を始めていると、後ろから声が掛かった。


「よう」

 

 横から男子の声がかかった。


 ナギトだ。ナギトは隣のクラス。2年A組だ。


「ミレイア、お前、魔法競技会に出たいんだろ?」

「……出ない」

「は? 何でだよ? お前の術や魔法の実力だったら……」

「パートナーがいないからです」

「……お前なー、何でオレがここに来たか、想像つくだろーが」


 私はハッとした。まさか、ナギトがパートナーになってくれるの? いやいやいや。なんで、こいつと組まなきゃいけないの? ナギトって何かうるさいし。


「オレと一緒に出ろよ。それしかねぇだろ。お前、優勝したら一躍、スコラ・シャルロの英雄ヒロインだぜ! パートナーも賞賛される。つまりオレも、この学校一番の英雄ヒーローになれるんだ!」


 ナギトは目を輝かせて言った。


「そうなりゃ、メチャクチャかっこいいぞ。王様気分だ!」


 こ、子どもっぽい……。学校で一番の英雄……王様気分って……。


(……ナギトには悪いけど、どう断ろうかな)


 私はそう思ったものの、マデリーン校長の言葉が頭から振り払えなかった。


「ミレイア、あなたはこの学校の魔法競技会に出場なさい。世界に危機がおとずれるかもしれません。その時に備え、自分を高めるのです」


 うむむ……校長先生の言葉なら、仕方ないのかな。

 うー……もう、しょうがないっ!


「じゃ、じゃあ、ナギトをパートナーにして、候補者に立候補しましょう」

「おっ、本当か?」


 ナギトは飛び上がって喜んだが、私はプイと横を向いてしまった。あーあ、承諾しょうだくしちゃった。


「そうこなくちゃ!」


 ナギトはうれしそうに言ったが、私はすぐに言葉を返した。


「で、でも、別にナギトのことが気に入って、パートナーにするわけじゃないんだからね! あくまでも、『しょうがなく』です!」

「お前、顔が真っ赤になってんぞ」


 ナギトはクスクス笑いながら言った。

 ハッ……。私は恥ずかしくて顔を隠した。


「なーんてウソだけど」とナギト。やられた。


「と、とにかくですね! 出場するからには、優勝しましょう! あ、でも、その前に出場者に選ばれないと……」


 私が宣言すると、ナギトも大きくうなずいた。

 

「なーに? あんたたちも、魔法競技会に出場するの?」


 ジェニファーがニヤニヤ笑いながら、近づいてきた。彼女の横には、勇者コースの秀才、ゲオルグがいた。やっぱり、ジェニファーも出場者候補か! しかも、パートナーはクセモノのゲオルグ!


「ミレイア、私があんたに負けるわけがない」


 ジェニファーは言った。


「私は最強の杖――ゴルバルの杖を持っているんだから」

「……ふーん、ポイズンモンキーから逃げ出した、軍隊指揮官が何を言ってるの?」

「な! う、ぎ、ぎ」

 ジェニファーは私をにらみつけた。


「私は候補に確実に選ばれるはずよ。優勝するのは私! あと、そのポイズンモンキーの話を皆に言いふらしたら、承知しょうちしないから!」


 ジェニファーはプリプリ怒りながら、教室を出ていってしまった。


「やるしかねぇようだな」


 ナギトは笑っている。


 私はため息をついた。勝負ごとは、あんまり好きじゃないのになあ……。

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