魔城をあてがわれた田舎令嬢、三人の魔族と経済的自立を目指します

アヌビス兄さん

第1話 チェルシー、流されて魔族の住む古城へ

 若い内から他と違っていた事はお金持ちになりたかった……高校時代から色んな所に僅かばかりの支援を繰り返していた。その内のいくつかが大きな会社になって僅かばりの支援が莫大な謝礼として返ってきた。

 

「二十歳になったら、誰よりも高い所でコーラを飲もう」そんな目標を達成しようと私は首都高を自慢のロータスで目的地に向かっている最中だった。

 

 

 周りからは生き急ぎ過ぎていると良く言われていた。否定はしない。

 大学にも専門学校にも通わず私は一直線に人生のショートカットを進んだ。

 答えは私の思った通り、正解だったと言えよう。

 私のショートカットし過ぎた人生は本当にゴールまで一直線だった。

 対抗から、酒でも飲んでいたんだろう。

 逆走した車高の低い車がブレーキも踏まずに突っ込んできた。

 ……あぁ、私の人生終わった……意外にも冷静に、私はその運命を受け入れていた。


★★★★★★★★★★★


……目を覚ませば何処? ……私は、夜景を見ながらコーラを……。

 

「お嬢様、目を覚まされましたか?」

 

 あぁ、そうか……そうだった。

 私は死んだのだ。そして何の因果かどこか知らない世界の片田舎における公爵令嬢、チェルシー・リノアラとして再び生を受けたのだ。


 そして本日、十四を迎えた私はどこぞの王子の何番目かの妻候補になるらしい。

 この世界は女性は政略結婚の道具的な使われ方も普通らしい。

 戦国時代か!


 とはいえ、王子というのであればお金持ちだろうし、私の子供の頃からの願いは成就するとも言える。せいぜい散財し、コーラ的な物を高い所から飲もうと思う。それくらいは運命も許してくれるだろうとか、そんな事を私は思っていたが……

 思っていたが、そんな甘い話は私にはどうやら無縁の産物のようだった。


 母親と父親は私に道中何かがあってはならないと貴族の令息用。要するに男装をさせて向かわせた。

 それが悪かった。

 私のこの世界での思い出といえば、そこそこ可愛い女の子を演じてきた。

 それが遠い地の王子の耳に届いたらしく本日に至るのだが、男装をして顔を隠している私の姿を見た王子の陣営の連中は、代わりの使いの者を婚約の儀に向かわせていると報告。

 その結果として、私など、会って見る必要もなしと王子の陣営の連中は判断したらしい。


 とりあえず形だけでもと私を第何番目かの妻として婚約をする事にしたらしい。


……片田舎とはいえその美人も自分のハーレムの一員だとしたいのだろう。

 実に不快感極まりない事である。

 さらに、私の与えられた場所がすこぶる悪かった。

 その王子が所有しているという最果ての地に聳え立つ古城。そこに私を送り込んだのである。もちろん、召使いなんていない。


 今にして思えば、私の存在なんてどうでも良かったのかもしれない。その王子が欲しかった物は私の父の持つ広大な土地といったところか?

 

そんな経緯で私は最果ての古城、いいえ魔城に住まう事になる。


★★★★★★★★★★★


 さて、嫁入り道具というには物足りない数のドレスとそこまでの価値はないであろうジュエリー。

 私の所有物であるという事の証明である古城の権利書。


 しかし思えばとんでもない所に来てしまった。馬車で数日、野営、そしてまた馬車で数日。


「崖の上のお城なんてノイシュヴァンシュタイン城くらいしか知らないけど」


 そう言ってみても、この古城のヴィジュアルはどう考えても良くない感じがヒシヒシと伝わってくる。

 何か、よくない者が住んでいたような。


 どういう経緯で王子がこの城を所有していたかは知らない……

 まぁ私にこんな不動産と土地の権利書を渡してくれた事に関しては感謝ね。

 この世界の女子は勉学や芸術を嗜む事はあっても家督を継いだり、経営を行う事は殆んどないらしい。

 なので私は十四までリノアラ家でできる限り最高の教育を受けて静かにしていた。


 私を最果ての追いやれたと思っているでしょうが、私からすれば最高の環境なの。

 しかし、この古城には誰もいない筈だけれど。

 

「……この屋敷の新しいご主人様でしょうか? 悪い事は言いません。早急にお立ち去りください……」


 いつの間にやらエントランスホールにメイド服の女の子が……


 栗色の髪に綺麗な青い瞳。お人形みたいというのはこの事だろうという女の子。それが同時に人間ではないというのが私が生まれつき持つ鑑定眼に引っかかる。

 

「貴女は……この古城に住むブラウニー、妖精さんかしら? 私はチェルシー・リノアラ。この古城の現在の持ち主よ」

 

 と聞いてみる。

 彼女ははわわと慌てる。

 

「は、はい。私はこの神魔獣様の城に古くから仕えさせて頂いているブラウニー、名前はレシルです。今までこのお城に多くの方が主人として住まわれようとしたのですが、神魔獣様亡き今もお城を守る三柱の方に追い出されてしまったのです。あの方々に見つかるとご主人様もどんな酷い目に逢うか」


という事らしい、神魔獣というのはかつて魔王と二分した人類の脅威。


何者かに討伐されたらしいんだけど、その辺りの歴史に関しては随分曖昧だった。まだ人類の脅威、魔王が健在している事も大きな理由ね。

そして、その神魔獣の下僕の三人がこの古城に住み着いているという事。

その三人が悉くこの古城に住もうとした者に嫌がらせをして追い出しているという事がレシルの話で理解できた……


私にこの古城の権利書を渡した理由はいくつか考えられるが、私同様厄介払いという事なのだろう。


だがしかし、私は正当にこの古城に住む権利があり、その三人とやらが不法住居中な訳だ。


「レシル、私の事を心配してくれてありがとう。でも、それは聞けないお話ね。私は、私の婚約者のどこぞの王子に……この古城を貰い受けています。私はこの古城を守る任があります」


と私がそう言うのを聞いて、ブラウニーのレシルは悲しそうな顔をする。

あぁ、泣かないでレシル。何だか子供を泣かしているようで気が引ける。


きっと私の見た目がまだ少女だからというのもあるのだろう。

というか、こんな少女と結婚とはいつか結婚相手の顔を見たいものだ。


レシルは今尚その三人に見つからないか慌てているのだろう。逆にどんどん私の方が冷静になっていく。

一応私も魔法の力にはそれなりに自信を持ってはいる。

でもここにいる三人はそういうレベルの魔物じゃないのだろう。

どうにかして出て行ってもらうか、妥協点を決めて共に生活をできないか。

とりあえずその前に、「レシル。お茶を入れてくれる?」と言ってみると、パッと花が咲いたように笑顔に変わる。


ブラウニーは屋敷や古城で給仕する事に喜びを覚えると本に書いてあった。その通りらしい。


「チェルシー様。お茶請けにシフォンケーキをお作り致しました。宜しければこちらもご賞味ください! お菓子をお出しするなんてどれだけぶりでしょう」

 

レシルの淹れてくれたお茶は、ハーブティーだろうか? 嫌いじゃない。

 

あとシフォンケーキも……私が前世で食べていたスイーツに比べると数段落ちるけれどこの世界水準でいえば納得できる味。私は味の心配をしているレシルに笑って美味しい事を伝える。


それはそれはレシルは嬉しそうに微笑む、超可愛い。


私も普通に生きてて、普通に誰かと結婚したらこんな娘が出来ただろうか?

あまりにも笑えない冗談ね。考えるのをやめてティータイムを楽しむ事にしよう。

 

「……ねぇ、レシル。その……この古城にいるその三人の事を教えてくれたりできる? 私としてもできる対策はとっておきたいのよね」

「……それは」


レシルは三人の事を話すのを躊躇していた。

 

それはいきなり来た私よりも長年一緒に住んでいる三人を裏切るような真似をする事へなのか、あるいは報復を恐れてか。

 

しかし、レシルはその三人の事をゆっくりと、私に教えてくれた。

それはお茶とケーキを褒めた私への親近感なのか、それともこの古城の正当な持ち主としての忠誠か?


一体私は第何夫人なのかは知らない。

ぶっちゃけ結婚相手にも興味はない。しかし、この古城に関しては私はどうしても手放したくない。

幼少期から静かに、どうにかして私は独立する事を考えていた。そのチャンスはこれを逃したら多分ない……


私は前世で全てを手に入れた。そう思った時に、私自身を失ったのだ。

そこで別世界に生まれ変わり、そこでも政略結婚に近い形で生きながらに自分を失うと思っていた矢先、この状況は僥倖と言っていい…………

 

その為の最初の障害が、神魔獣とやらの三柱という最強最悪の魔物だろうが関係ない。私は私を取り戻すのだ。


「……チェルシー様、以上が三柱の御方々です」

「……へぇ、なるほど」



三柱の簡単な情報は仕入れた。少年のような姿のアモン、魔法力では最強と名高い幹部。もう一人がマルドゥーク、青年の姿をしているらしい。この古城の周囲の守備を担っているとか。

 そして、一番得体の知れない幹部がダンタリアン。お酒が好きで若い女性の姿をしているとか。


「でも、どうしてみんな人間の姿をしているの?」

「……そ、それは。私には分かりません」


 あらら、レシルは困って泣きそうな顔をしている。

 泣かないでレシル、貴女は悪くないんだから。


「なんでアタシ達が人間の姿をとっているかって? 立ち去る人間が知る必要なくない?」


 私の背中からゾクゾクと強烈なプレッシャーを感じる。魔物は見た事がある。

 しかし、それは魔物なんていうレベルじゃない。命を握られているような……

 振り向いたらいけない。そう本能が拒否している。だけど……ここで負けたらダメだ。

 

私は振り向いて声の主をその目で見る。

三人、軍服のような服を着た少年、スーツを着た青年、そして露出の激しバーテンダーのような服を着た女性。


「悪いけど、この古城は私の持ち物なので立ち去る必要はないのだけど?」


少年が物凄い表情で私を睨みつけてくる。それこそ、今すぐにでも噛みつきかねない程の形相。

とりあえずポーカフェイスだ。


会話をしている間はまだ大丈夫。前世でもこのくらいの修羅場はあった。あの時の方が……もっと怖い。

私は三人を見つめ余裕の表情を浮かべる。代わりにレシルが泡を吹きそうなくらい慌てている。

私を見つめている三人の内、青年。マルドゥークが話し始めた。

 

「この城は我らが主、神魔獣様の居城。人間風情がこの城の所有者などと軽口を叩く物ではありません。立ち去りなさい。力づくで貴女をすぐに追い出す事もできる中、こうして私達が出向き、交渉しているのです。それに人間の権利書が私たちに通用するとは思わないで下さい」


 えらく、丁寧な言葉遣いだ。これなら、交渉ができるかもしれない。私は彼らに提案した。


「えっと、私は貴方達に出て行けとは言わないわ。共同生活は出来ないかしら?」

「は? 却下だよ却下。人間如きが僕らと一緒に共同生活? あまり馬鹿にするのもいい加減にしろよ? こいつ力づくで追い出しちゃおうよ!」

「……妥協点はないの? 私はここに住む必要があるの……」

「ありません。お引き取り下さい」

「ふぅん、まぁまぁマルちゃんとアーちゃん。冷静に! あのさ、お嬢ちゃん。アタシ達と共同生活するって事は、私達を使役するって事。要するにアタシ達の新たな主になるって事」

「………そ、そう。なら貴方達の新しい主になるわ! どうすればいい?」


レシルは頭を隠してしゃがみ込み。

アモンがブチギレ、マルドゥークも随分怒りを露わにし……一人楽しそうなダンタリアンが二人を静止しながら私を見て狂気的に咲った。

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