第29話 五月病

「喰らえ。ギルダー、キーック」


 俺は必殺技の、ギルダーキックを、怪人ビフィダスに叩きつけた。


「グワ~ッ!」


 ドガーン!!


 よし、怪人ビフィダスを倒した。


 地球人も無事だ。


「おのれ、ギルダー、覚えておれよ! 次こそ必ず始末してくれるわ!」


 ガルドネスが、負け惜しみのセリフを吐いて逃げて行く……


「……はあ……いつでも来い、ガルドネス……地球の平和は俺が守る」


 なんとなく気分が憂鬱だ。


 今日はさゆり先生もいないから、決めポーズをする気にもならない。


「やったー! ギルダー! ありがとう!」


 子供たちが声援を送りながら駆け寄ってくるが、今日は早く帰りたい……


「それじゃあ、坊や達、気をつけて帰りなよ……また会おうね」


 俺は宇宙用エアーバイクで、その場からだるそうに去っていった。

 ―――――――――――――――――――――――


「ただいま戻りました……」


 俺が署に戻ると、課長がエクセルで第一四半期の総括表の作成に取り掛かっていた。


「おう、お帰り。どうだった、怪人は?」


「楽勝ですよ……すぐに倒して帰ってきました……」


「どうした、ギル? 元気ないな……何かあったのか?」


「いや……なんていうか……やる気が出ないんですよ……」


「どうした? 急に?」


「……俺、このまま一生、ガルドネス達の相手をしながら過ごしていくのかなって考えると、なんかむなしくなっちゃって……」


「あちゃ~、遅めの五月病か~」


 課長とそんな会話をしていたら、ギャリバン署長が刑事課室へ入ってきた。


「諸君、ご苦労。銀河南警察署長から草餅をいただいた。よかったら食べてくれ。ギルダー、お前、草餅好きだって言ってたよな?」


「ありがとうございます、署長……後でいただきます……はあ……」


 ため息をついている俺の様子を見たギャリバン署長は、課長とひそひそ話を始めた。


「ヴァンガー、どうしたんだ、ギルダーは? 元気がないようだが……また、何かやらかしたのか?」


「いえ、署長、どうやらギルのやつ、遅めの五月病みたいなんです。やる気が出ないって……」


「ふむ、そういうことか……」


 署長は草餅を課長に預けて、俺を呼びつけた。


「ギルダー、ちょっと署長室まで来い」


「……はい」


 俺と署長は、署長室へ向かった。


 ―――――――――――――――――――――――


 署長室で、俺と署長は対面に腰かけた。


「ギルダー、最近、仕事に身が入っていないようだな?」


「……はい、なんだか最近むなしくって……毎日同じことの繰り返しで『これでいいのかな』って思うんです……」


「そうか……お前、恋人はいるか?」


「えっ!? 何ですか、急に!?」


「プライベートなことを聞くのはいけないのかもしれんが、好きな人はいないのか?」


「……恋人はいませんが、気になっている人はいます……」


「好きなのか?」


「……はい」


「それなら告白するなり、デートに誘うなり、アタックしてみたらどうだ? 恋人がいると、仕事にも張りが出るからな」


「そんな……! 無理ですよ……! まだ、ろくに話したこともないのに……」


「ギルダー、お前、男だろ?」


「……はい」


「グズグズするなよ」


「……っ!!」


 俺は、胸のエンジンに火が点いたような気がした。


「署長、ありがとうございます! 俺、頑張ってみます!」


「うむ、頑張れよ!」

 ―――――――――――――――――――――――


 ――翌日――

 

 「喰らえぇぇぇぇぇっ! ギルダーッ! パーンチッ!」


 俺は必殺技の、ギルダーパンチを、怪人ベルジエッチに叩きつけた。


「グワ~ッ!」


 ドガーン!!


 よし、怪人ベルジエッチ倒したぞ! 地球人も無事だ!


「おのれ、ギルダー、覚えておれよ! 次こそ必ず始末してくれるわ!」


 ガルドネスが、負け惜しみのセリフを吐いて逃げて行きやがる!


「いつでも来い、ガルドネス! 地球の平和は俺が守る!」


 今日はさゆり先生もいるから、新しい決めポーズを初披露した。


「ありがとうございます! ギルダーさん!」


 さゆり先生が、薔薇のように可憐な笑顔で俺にお礼を言ってきた。


 よし、言うぞ! 言っちゃうぞ!


「さ、さゆり先生! こ、今度、え、映画でも一緒にどうですか!?」


「わあ! 嬉しいです!」


 やった! やったぞ! 俺、やりましたよ! ギャリバン署長!


「たけし君、今度ギルダーさんが『みんなで映画を見に行こう』だって! 良かったわね!」


 えっ? ちょっと待って? たけし(呼び捨て)達も一緒なの?


「本当!? わーい! 僕、ちょうど見たいヒーロー映画があったんだ! ありがとう、ギルダー!」


 たけし(呼び捨て)が飛び跳ねて喜んでいる。


 お前、毎日、俺というヒーローを見ながら、映画でもヒーローを見たいのか……


 まあ、いいや! 一歩前進だ!


 

 俺の名前は宇宙刑事ギルダー! みんなも五月病には要注意だぜ!

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