桜とモブ

京極 道真  

第1話 僕のサクラ

春。10時18分。朝の退屈な時間が流れる。時間が停滞する。先週卒業式は終わった。4月から大学。暇だ。暇だ春は嫌いだ。”春は心がぐちゃぐちゃして嫌いだ。”窓を全開。僕以外誰もいない部屋。腹は減ってない。しかし、外の新鮮な空気が無性に吸いたい。昨日は深夜2時迄オンライン。対戦バトルは楽しい。気兼ねせず、いや嘘だ。見えないからこそ、電磁波に乗ってチームメンバーの本日の健康状態、感情も手に取るようにわかる。案外僕って超能力者か宇宙人かも?と本気で思うこともある。まあ、それはさておき今は暇だ。卒業後のこのフリーな時間、モブの僕は時間をもてあます。ボサボサの頭でパジャマのまま、またPCの前に座る。そういえば小学生の頃、一人で木こりのゲームしていたな、イカのゲームも結構気にいっていた。久々するか。『コーン。コーン。』全開した窓の外から木を切る音が。空耳?”えっ?”近くに大きな木あったっけ?いや、ない。1本大通りには銀杏の街路樹があったがしかしこの音は『コーン。コーン。』あっ、また聞こえた。窓からサクラの花びらが帯のように入ってきた。しかも大量に僕はサクラの花びらを”ぐちゃぐちゃ”とわしずかみ。”ぐちゃぐちゃ”と壊しているのにサクラの花びらは崩れない。”何かおかしいぞ。”しかし待てよ、ここはマンション12F。サクラの花びらがここまでこんなに大量に来るはずがないが。そして1枚が。僕のPCの上に落ちた。PCが勝手に起動する。木こりのゲームがはじまる。お決まりの音楽がなる。画面から『コーン。コーン。』アバターの僕は木こりで木を切る。切った分だけ換金できる。りっぱな労働だ。小学生の時に、はまったゲームだ。そうだ僕はあの頃から春が嫌いだった。退屈だし時間は緩い。大人たちは、春は新しいことの始まりですよ。と希望を抱かせ。冷めた僕には言葉は届かなかった。結局。”思い出した。”確か橋を渡り通学路、水神社近くの川沿いにサクラの木があった。その中でも水神社の正面の1本のサクラの木がいつも一番に”一輪だけ”咲いていた。そのサクラは僕にいつも春を知らせてくれた。しかし小4年の春。サクラは消えた。代わりに高圧電力の鉄の箱に変わっていた。洪水対策で大規模地下工事があるためだ。その前の年に川が氾濫。被害が大きかった。頭では対策、対策わかっていたが”あの時の僕の頭の中は”ぐちゃぐちゃ”だった。”誰にもあたれない。そして小学4年生以来、僕は春の訪れを忘れた。PCの上のサクラの花びら。時空を超えてこの僕に春を知らせに来てくれたようだ。僕はやっぱり超能力者か宇宙人だ。大きな風が吹いた。PCの上でサクラの花びらが舞い上がり窓の外へ。それと同時にあの時の僕の頭の中の”ぐちゃぐちゃ”も全部、風に乗り窓の外へ。「よーし。」今度はイカのゲームするか。「ピロ、ロ、ロ、ローン。」イカのゲームの音楽が鳴り始める。一枚の桜の花びらが窓から戻ってきた。花びらは白いモクモクの霧を出し、中から小さい女の子が「おーい。久しぶりケイタ。」「えっ、女の子?君、誰?」「私、わたしはサクラ。ほら、君が見ていた桜の木のサクラだよ。」「ちっと、待った。君、人間?じゃないよね。今、窓の外から入ってきたよね。ここは12F。」「ケイタ、何をあたふたしているの?さっき、『案外僕って超能力者か宇宙人かも?』とか自分で言ってたじゃない。」「えっ、聞いてたんだ。いや、ちがう。僕は頭の中で言ってたんだ。君、僕の頭の中、のぞいたな。」「まあね。一応これでも桜の木の妖精だしね。わ・た・し。」「君が妖精?」僕は、必死に考えた。僕はモブだ。特に人と関わることは避けていた。確かに先週の卒業式以来、あの、縛られた息苦し学生生活から解き放たれ、喜びで夜通しゲーム。ゲームゲーム。昼夜逆転生活が続いている。これは夢だ。僕は天才的、能力者かつ宇宙人的な頭脳で考えた。導きだした答えは”夢だ。幻だ。”」女の子はぐいっと一歩僕に近づき腰に手を当てて「ケイタ。ケイタっておバカさんなの?現実見ようよ。今君、ケイタの前にはだ・れ・がいますか?はい、答えをどうぞ。」「君でーす。」「よーし。正解。よく考えればできるじゃないですか、ケ・イ・タ。」僕はあきらめた。現実を受け入れよう。「それで、サクラの妖精さん、僕に何か用ですか?」「そうですね。用ですか?用ですね。君、ケイタが呼んだから来てあげたのに、モブのケイタ君、態度が塩対応ですね。つめたいですね。じゃケイタがその態度ならこれをあげましょう。毛虫攻撃。」「ザー」大量の毛虫がケイタの頭の上に。「「わー。やめてくれー。ごめんなさい。」僕は正座して「僕はモブでした。ごめんなさい。サクラの妖精の姫、ご用意は、なんでしょうか?」「よろしい。はじめからそうして、くれればいいのにケ・イ・タ。」「あのー。」「何?ケイタ。」「君の名前教えてくれる?」「私の名前?私はサクラの妖精のピンク」「ピンク。ストレートでいい名前だ。」「ありがとう。私も気にいっているの。」「ところでピンク。モブの僕に何の用?」「そうそう、大事なことは忘れていた。時間がないの。急がなきゃ。ケイタ、水神社のサクラの木、覚えている?」「もちろん、僕の大好きな木だった。覚えているに決まってるさ。」「そう、良かった、あのサクラの木にはサクラの妖精界に通じるドアがあるの。」「でも、ずっと前に木は切られたよ。今は高圧電力の鉄の箱が置いてあるけど。」ピンクは真剣な顔で「その鉄の箱の真上に妖精界に通じる時空空間にドアはあるの。そこから私達妖精は人間界と出入りしているんだけど、ケイタ、助けて。探して。」「えっ、何を?」「カギ。なくしちゃの。」「えー。」「ケイタ手伝って。帰れないと卒業式に間に合わない。」「卒業式?」「ピンク何年生?人間界でいうと10進法で小学校卒業。妖精は100進法で小学校卒業なの。」「ピンク、小学生なの?」「そうよ。」

”時間は大切だ。その時を逃すと戻れない。卒業式は一度きり。時間は一方通行。

これは、人間界も妖精界も同じだ。”

僕は即答した「カギ、一緒に探すよ。」モブとピンクの”カギ”捜索隊結成。

僕はピンクの妖精魔法で部屋を飛び出し空を飛んだ。






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