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その時足元から、にゃーん、と薄く高い声が聞こえた。
喫茶店の制服として使っている、
布越しでも柔らかさが伝わってくる、
壊れてしまわないよう、小さな身体をゆっくりと抱き上げた。
「もうごちそうさま? お腹いっぱいになったかにゃ?」
「にゃーん」
返事をするように、か細い声を出してくれる子猫。
晩御飯のキャットフードを食べ終えたらしく、口の周りをぺろぺろと舌で撫でている。
「ちょっと待ってね? もう少ししたらちゃんとした飼い主さんが来るはずだから」
クリーム色の壁にかけられた焦茶色の古時計を見ると、黒い矢印が約束の時間を指していることに気がついた。
ちょうどその時、またドアを揺らす鈴の音が訪れる。
外から顔を出したのは、私より幾分か背の低い中学生の女の子だ。
「こんばんは」と挨拶すると「こ、こんばんは」と遠慮がちに答えた彼女がゆっくりと近づいてくる。
途中、藍之介の存在に気がつくと、肩を小さく跳ねさせ忙しなく何度も頭を下げていた。
藍之介は穏やかに微笑むと、落ち着いて一度だけ礼をした。
異性を驚かせるほどの容姿端麗ってすごいと思う。
それから彼女は私のそばに立ち止まると、片手に持ったキャリーバッグを置き、腕にくるまれた子猫を映した瞳を輝かせた。
「……すごく可愛い、写真で見た時よりも」
「そうだよね、でも動物だから体調が悪くなったりおトイレのお世話もあるけど、ずっと大事にしてあげてね?」
「は、はいっ」
カジュアルな服装をした少女は、決意を表明するように背筋を伸ばして返事をした。
一週間ほど前に近辺にある公園で、この子を拾った。
今時こんなことをする人がいるのかと疑うほど、物のようにダンボールに入れられ放置されていた。
目が合ってしまっては見過ごせないと思った私は、とりあえず一旦家に連れ帰ったのだ。
本音を言えば飼いたかった。
猫がいる喫茶店なんて、憧れだ。
けれど自分の生活も難航しているのに、そんな贅沢は言っていられない。
そこで私は涙を呑みながらネットを通じて飼い主を探した。
幸いすぐに反応があり、やり取りした感じもよかったこの家族に引き取ってもらうことにしたのだ。
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