ネタモト言えるかな?

百舌すえひろ

ネタモト言えるかな?

 むかしむかしあるところに、仙人になりたい男がいました。

彼は仙人になるための就職先を探していましたが、なかなか見つからなかったので、仕方なく派遣会社に登録しました。

男は「絶対条件は、仙人になれるキャリアが積める職場」と言い続けたので、登録先の派遣会社はお手上げで、ハローワークを勧めました。


 ハローワークの窓口でも『仙人になれる職場』なんぞわかりませんから、職員は困ってしまいました。

そんなところに若い男の働き手を求めていた造園会社の社長がやってきました。

「それならうちで住み込みで働けよ」と社長はニコニコしながら誘いをかけてきたので、男は喜んで造園会社に就職しました。


そこの社長は

「仙人というのは我欲がよくを捨てた人のことだ。本気で仙人になりたければ、欲を完全に失くさないといけないから、休みなく無給で働かないとなれないぞ」と言いました。


 男はその日から三年間、休日なしの無給で働きました。

しかしなかなか仙人になれませんので、社長に「まだですか」と言うと


「まだ三年しかたっていない。仙人とは本来、かすみを食べて生活している人だから、飯を食べる人間はなれないのだ。だが、すぐに飯を抜いてしまっては、普段の仕事に支障が出るから、今までは飯を三食食わせていた。本格的に目指すなら、まずは一日二食。それに馴れたら一日一食。おいおいは、なにも食べずに生活できるようにしてみようか」


と言いました。

男はそれから一日二食、馴れてきたら一日一食に切り替えました。


 しかし、一日一食で朝から晩まで肉体労働をしていると、さすがに身体がもたず、日中もフラフラし始めました。


「どうしたら仙人になれるのだろう……」


男は真剣に悩み、どうしても絶食までできないことを社長に相談しました。

社長は難しい顔をして


「どうしても仙人になりたいと言うのなら、絶食せずとも最短でなれる方法はあるが。……とても過酷だぞ」


と念を押すと、男は即座に話に乗りました。


社長は庭に出ると、一番高い松の木を指さして「あの松のてっぺんに登りなさい」と言いました。


男は長年鍛えられた造園技術により、苦もなくてっぺんまで登りました。

登りきった先で、下にいる社長を見ると、蟻ほどの大きさになっていました。


「そこから両手を放してみなさい。恐れたら仙人にはなれないぞ」


男が手を放すと、足場にしていた枝から足を滑らせ、空中に放り出されました。


「やれやれ、うるさいやつがいなくなって清々した」


 実は会社の業績が悪く、既に人を雇えなくなっていました。

従業員の労働契約が違反していることを労働基準局に指摘されそうだったので、社長は彼にいなくなって欲しいと思っていたのでした。


しかし男の身体が地面に落ちることはなく、宙を浮いていました。


「社長、おかげさまで仙人になれました。長い間お世話になりました」


そう言うと元従業員だった男は、日の落ちる遠くの山裾やますそに向かって飛び去りました。


 それを見た社長は、恐怖と驚きでその場で腰を抜かし寝込んでしまいました。

三日三晩うなされた後、日中はふらふらしながらなんとか生活してましたが、満月のある晩、突然気の狂ったよう吠えると、家から飛び出してしまいました。


 社長は四つん這いになって何日も野山を駆け巡ると、身に付けていた服は破れ、裸になっていました。

お腹がすくと、目についた野兎や山鳩を捕らえて生のまま食らい、剥き出しだった裸は体毛が伸び放題になりました。

喉の渇きから水場を探し、湖に映った姿を見ると、社長は虎の姿になっていました。



 ちょうどその頃、西の空を飛んでいた仙人は、人里離れた山奥で高い塔を見つけました。

その塔の表面は白い象牙で覆われていて、周囲を見たところ、どこにも入り口らしい扉がありません。

塔のてっぺんには一つだけ窓が開いていて、亜麻色の髪の乙女が地面まで伸びた髪を窓から垂らしていました。


「お嬢さん、そんなところで何をやっているんですか?」


声をかけられた彼女は目を大きく開くと、


「助けて。悪い魔女に捕まって、この塔に閉じ込められているの」


と仙人に訴えました。

そして、長すぎる髪を静かにかき分けました。


 その時に見えた彼女の白いうなじと仕草が、あまりになまめかしかったので、仙人の顔が熱くなりました。

その瞬間、彼の身体は重くなり、地面に叩きつけられ絶命してしまいました。


「空から来る人なんて初めてだから、この人こそはと思ったのに……」


彼女は溜息をつくと、ベットの下に空けた穴堀あなほりを再開しました。


 床下には、彼女の出す排泄物を微生物が分解処理するバイオ・コンポスト式のトイレが設置されていました。

そのため、塔の空洞部分はや杉チップで満たされ、悪臭もありませんでした。


 彼女は塔から脱出するために必死でおが屑を掘り、地上に出ようと半年間必死に掘っていました。

掘って出た廃土は、窓から少しずつ撒いていたため、塔周辺の木は豊富な肥料により、他の場所よりも生長に勢いがありました。

それでも、窓に届くほど大きくなる木はありませんでした。


 彼女はおが屑の層をかき分け最下層に到達すると、生活汚水を流す下水管に突き当たりました。

塔の最下層には余っていたレンガの残りが散乱していたので、その一つを取り、何度も管を打ちつけました。

なんとか管が破れると彼女は中に入り、臭い下水の中を四六〇メートルも這って進みました。

汚水は身体にまとわりつき、時々口の中に入ります。

そのたびに彼女は唾を吐き、強烈な悪臭に涙を流しながら耐えたのです。


 生活排水を排出する側溝に出ると、外は激しい雷雨でした。

彼女は汚れた身体を洗い流すように、天に向かって両腕を突き上げ勝利の雄叫びを上げたのです。


 塔からの脱出に成功した彼女は、魔女から与えられていた貴金属や装飾品と共に自分の長い髪を切り、まとめて質屋に買い取ってもらいました。

そのお金で服を新調し、肩までバッサリ切った髪の感触を楽しみながら、生まれ故郷のある南に向かうことにしました。



 旅の道筋で暗い林の中を通ったところ、くさむらから大きな虎が出てきました。

彼女が悲鳴を上げると


「うるさいな。……人の声なんていつぶりだろう」


と虎が言いました。

人語を喋る虎に彼女はたいそう驚きましたが、虎は


「人の意識があるのは今だけだ。獣としての欲がまされば、お前を見逃す理性もなくなる」と言いました。


すると彼女は「どうせ死ぬなら、思いっ切り踊らせほしい」とお願いしました。


そして彼女は、身に着けているものを一枚一枚脱ぎながら、近くにあったヤシの木をポール替わりにして踊り始めたのです。


 突然始まったポールダンスに唖然としていた虎は、裸になって木のてっぺんまで登った彼女を見ると、人間の男としての情欲がむくむくと湧き出し、我慢できなくなりました。


彼女は「私を捕まえたら夫婦になるわ」と虎を挑発しました。


 虎は登ろうと前足を木にかけますが、横枝のないヤシの木は四つ足で移動する虎にとっては足がかりになるものがなく、木肌を削るばかりでした。


虎は彼女が疲れて降りてくるのを待って、木の周りをぐるぐる回りはじめました。



ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる……



虎のからだは溶けだして、チーズになっていました。


木の上にいた彼女はそれを確認すると下に降り、落とした服を拾って虎が変化したチーズをぱくりと口にしました。



これが動物の型抜きチーズの始まりだそうです。


*


「はい問題。今の話で元ネタいくつわかったかな?」

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