034-Turning Point2 ヴェルニアの日記

 六月二十二日。私は単純な女なようで、こうもあっさりとヒトを好きになってしまうらしい。優しいヒトではあるけど、私としてもびっくりだ。顔も良ければ性格も良い。ちょっと眩しいくらいの良物件。私が釣り合うか分からないけど、好きになってしまったのはもうどうしようもない。これはミーシャちゃんには秘密にしておこう。というか誰にも言うつもりはない。日記も鍵が付いてるんだから誰にも読まれる事は無いしね?


 六月二十三日。彼に話し掛けられた。思っても無い事で、私からどうやって話しかけようかと迷っていた所、日直の仕事関連で話をしてもらえた。配布物を運んでもらうのを手伝ってもらって、とても気分が高揚してしまった。このまま、仲良くなれたらどんなに嬉しいか。でも彼は人気だから、そういうのはあまり望まない方が良いかもしれない。


 六月二十四日。ミーシャちゃんとお昼を食べた。ミーシャちゃんは料理が出来るようで自分で作ったモノを持ってきていた。羨ましい。料理が出来る子はモテるらしい。私もミーシャちゃんに教えてもらおうか……なんて。私に料理は向いてないか。


 六月二十五日。今日はミーシャちゃんと沢山話をした。あれ、これじゃいつも通りか。彼には王子様が居ると何度も聞いた。素敵な話。羨ましいと心から思う。私には、そういうヒトは居ても簡単にそうは言えない。だから、ミーシャちゃんが羨ましい。好きなヒトに好きと言える勇気があれば、私は……。


 六月二十六日。一つ二つとミーシャちゃんの事を知る度に羨ましいと思ってしまう。いけない。私は私。羨む前に振り向いてもらえるようにならないと。


 六月二十七日。教科書と教養魔導書を失くしてしまったみたい。あと一か月で定期試験だから、困った。学校に忘れてきただけなら良いけど、街中で落としていたらもう見つからないだろうなぁ。


 六月二十八日。教科書と教養魔導書を見つけた。ゴミ箱の中で切り刻まれていたけど、私の名前がギリギリ解読出来た。私のモノらしい。どうして……?


 六月二十九日。どうやら、私の事を良く思ってない子が沢山居るらしい。大体理由は分かってる。レグナードだ。私がレグナードと楽し気に話しているのを良く思わなかったヒトが沢山居たようだ。実際、私をクスクスと笑っていたヒト達も居た。そういう事なんだと思う。はぁ、これは、立ち回り方を間違えたらしい。


 数日飛んで七月七日。杖が折れていた。お兄に貰った大事な杖が、折られて……紙が濡れたのか、文字が滲んでこのページはこれ以上読むことは出来ない。


 また数日飛んで七月十五日。日記を書くのもつらくなってきた。もうやめようか。こんなのを残しても何にもならない。


 以降、空白のページが続く。大体二十ページ程進んだ所に、続きが書かれてある。書きなぐったような字で、前まで書いてあった丁寧な字は見る影もない。見て感じられる程の怨嗟が籠った字。


 もう、疲れた。私は、こんなに醜かったのか。ミーシャちゃんが羨ましい。羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい。わた………………………………………………………………妬ましい。妬ましい。どうして私じゃダメなんだ。どうして。私じゃダメなんだ!! 努力した。頑張った。けれどもう、ダメだ。私には、もう耐えられない。ミーシャちゃんが、妬ましい。自分が、私がこんなにも醜いのが、情けない。


 死んでしまいたい。こんな気持ちになるのなら死んだ方がマシだ。…………………………………………い。


 日記はこれ以上読む事が出来ない程に字が乱れている。真っ黒で塗りつぶされているページが一枚あったが、良く見ると文字が重なって塗りつぶされているのが分かる。何が書かれているかは判別出来ない。インクでぐちゃぐちゃになっている為、紙もふにゃふにゃに曲がってしまっている。かなり抜粋したので、実際の文章量には及ばないが、これ以上麗らかな乙女の日記を晒すのは気が引ける。亡き彼女の死体荒らしなど、やりたくはない。


「どうして──────」


 なんて言葉はきっと、もう無意味なんだ。

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