マーブリングの夜に
一色まなる
第1話 目玉商品は何にしよう?
「フェスタ・デ・ルカが始まるんだね」
「そうだね、リリーは今年も出店やるの?」
「イネスはどうする? 実家の手伝い?」
「かもね。まぁ、なんたってこの国一番のお祭りだもん、張り切っちゃう!」
目の前に掲げられた看板にリリー達は足を止めた。この王国では毎年春の訪れを祝って祭りが行われる。かつて魔物の群れを奇跡を持って鎮めたとされる聖人ルカの名を冠するこの祭りは王国一番の賑わいを見せる。
「期待してるわよー。期待の新人画家リリー」
にやにやと笑いかけるイネスにリリーは苦笑いを返した。イネスの家は花屋で、毎年お祭りに合わせてバスケットフラワーを作っている。様々な形をしたバスケットに彩り鮮やかな花を活けていく作品は非常に人気が高く、祭りの間飛ぶように売れていく。
(期待の新人画家、かぁ)
うなじのあたりで適当にクリップで止めた髪を触り、リリーはため息をついた。イネスはああ言ったものの、リリーはこれといった賞を取ったわけでも、著名な批評家家に目をつけられたこともなかった。
(私が画家になったのも、よくある流れだし……)
リリーは子どもの頃から引っ込み思案で本と空想に逃げ込むような子だった。それではいけない、と両親がリリーにスケッチブックと絵の具を与えたのが始まり。
リリーはゆっくりとした坂道に息を荒げる。石造りの街並みは今はすっかりお祭りに染まり、あちこちに飾り付けがされていた。
(今年こそ……完成させなきゃ)
そうだ、フェスタのマルシェにリリーも参加することになっていた。王国の中心にある教会の前の大広場がマルシェの会場だ。参加者はそれぞれ好きなものを持ち寄って売り出していく。
あるものは手製の編み物、あるものは色鮮やかなクッキーやケーキ、またあるものは大道芸とその場にいただけで心が弾むようだ。
そして、画家であるリリーもまたマルシェに自信の作品を売り出すことにしていた。でも、あと一つ。目玉になるものが何一つ思いつかないのだ。
小さい手のひらサイズのキャンバスの作品はいくつも作ったし、手ごろな値段のポストカードはすでに印刷屋に依頼してある。
――― 目玉になるものがあれば、注目されるかな。
去年は目玉になるような商品が作れず、寂しい結果に終わってしまった。画家生仲間からは”目玉商品を作ったらどう?”と至極まっとうなアドバイスをもらったから、この一年考えていた。
「でも、何も思いつかないや……」
人目につくだけなら、それこそ巨大なキャンバスを目の前にしての実演が手っ取り早い。でも、バザールの出店できる範囲は決められていて、キャンバスは入らない。だからと言って、目の前でキャンバスを広げて書いていては、お客さんと話せないし、集中してしまったらそれこそ遠慮されてしまう。
「どうしようかなぁ……」
とぼとぼとリリーは下宿先へと歩いて行った。
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