104 暴露を受けて
『WBWの開催周期を4年に1度から2年に1度に短縮し、より多くの試合機会を設けることとなりました』
数日後。
ニュース番組が国際連盟からの発表を伝えていた。
どうやら次回以降、WBWの開催頻度が増えるらしい。
この世界に限って言えば、それはつまり国際連盟や国際機関の各ポストの任期が短くなることと同義になる。
前世で言うと非常任理事国の任期と同じ2年という周期。
交代のサイクルを早くすることで組織の新陳代謝を図る。
名目上はそんなところだろうか。
『これを受け、各国は対応に追われています』
次々回への準備に追われて国は大変そうだが、少なくともテレビを見た限りでは批判的な意見はほとんど聞こえてこない。
まあ、インターネットの掲示板とかは見ていないので分からないけれども。
結局のところアメリカが勝つのなら、たとえ任期が短くなろうと関係ない。
同じ国の人間がトップに居座り続けるのなら、腐敗してしまうのが世の常だ。
にもかかわらず、否定的な言葉を耳にしないのは、むしろWBWで負けるのが悪いという感覚がどこかにあるからか。
いずれにしても、文句があるのなら試合に勝てということだろうが……。
比較的番狂わせが起きやすい野球ということを考えると、世界最強に挑む機会を増やすのは野球狂神の加護下では最大の譲歩と言えるのかもしれない。
「折角勝っても2年でまた優勝しないといけなくなるのは酷い」
通学途中の車の中。
車載モニターに映し出されていたニュースを俺のすぐ隣で眺めていたあーちゃんが不満げに呟く。
世の中的には珍しいネガティブな意見だ。
しかし、まあ、そう思う気持ちも分からなくはない。
他の国がWBWでうまく優勝することができた時、それは逆にちょっとしたデメリットにもなり得る。
だからこそ、アメリカもこの処置を許容したのかもしれない。
万一自分達が敗北した時、2年で王者を奪還できればダメージは少なくて済む。
何かの間違いで負ける可能性はあるかもしれないが、いくら何でも連続で頂点を取り逃すようなことはあり得ない。
そんな風に考えているのだろう。
「茜も秀治郎君と同じく、アメリカに勝つことを当たり前のように思ってるのね」
「当然。しゅー君にできない訳がない」
加奈さんの言葉を即座に肯定するあーちゃん。
俺について言及しているのに、何故か彼女が胸を張っている。
いずれにしても、それだけ俺を信じてくれているのだろう。
この信頼は裏切れない。
もしかすると、他のあらゆることよりも大きなプレッシャーかもしれない。
彼女に誇れる自分。そして、彼女が誇れる俺であり続けることは。
「とりあえず機会が増えたことは、喜んでおこう。まあ、俺達がWBWに出場するとしたら、どっちみち最短で20歳の時の奴になるだろうけど……」
その次の開催タイミングが24歳か22歳かの差は結構大きい。
心情的にも。
そもそも単純計算でチャンスが倍になる訳だしな。
とは言え、勝利の可能性が最も高いのは俺達の前情報をある程度隠すことができる初出場の時だろう。
であれば――。
「目指すべきことは変わらない。初出場初優勝だ」
つまり猶予は5年と少しということになる。
俺自身はステータス的には完成しているので、後は【年齢補正】や【体格補正】のマイナス値が小さくなるのを待つのみ。
だが、やらなければならないことは山積みだ。
実戦経験を積む。野球脳を鍛える。仲間を揃える。などなど。
時間はあるようでない。
「わたしもしゅー君と一緒に頑張る」
と、そんなことを言いながらピッタリとくっついてくるあーちゃん。
もう中学3年生なのだが、彼女は変わらないな。
苦笑しながら、そのサラサラとした黒髪を触れる。
そのまま軽く撫でると、あーちゃんは微かに目を細めて頬を押しつけてきた。
行動だけでなく、【以心伝心】でも嬉しさが伝わってくる。
「世の中は結構な騒ぎだけど、2人は落ち着いたものね」
そんな俺達の様子に加奈さんが苦笑しているのが、ルームミラー越しに分かる。
まあ、今のところ耳にした変化だけなら俺達がやるべきことは同じだからな。
一々慌てふためくことでもない。
政治的な部分はどうしようもないし、考えるだけ無駄だ。
「今はそれより目前に迫った全国中学校硬式野球選手権大会の方が大事ですから」
将来のWBWで勝利するためのピースの1つ。
磐城君が今後も野球を続けることができるように圧倒的な力を見せつける。
そのために万全を期して臨まなければならない。
「……でも、そうか。もしかすると皆、浮足立ってるかもしれませんね」
今のところ、中学生の俺達には何ら関係のない話だけれども。
もしかすると、この波紋が今後何かしらの影響を及ぼしてくるかもしれないし。
風が吹けば桶屋が儲かる、なんてことわざがあるぐらいだからな。
「一応、気をつけて見ておかないと」
「そうかもしれないわね。でも、1人で何でもかんでも抱え込んじゃ駄目よ?」
「はい。分かってます」
あーちゃんに視線を向けると、彼女は何でも頼って欲しいと言わんばかりに表情をキリッとさせる。
頼もしい姿だが、仲間のフォローとなると彼女はちょっと頼りにならない。
他のところで手助けして貰うとしよう。
……といったところで、学校に到着。
「2人共、いってらっしゃい」
「はい。行ってきます」
「行ってきます」
あーちゃんと2人、車を降りて校門を潜る。
さて、大会に向けた最後の仕上げ。今日も頑張るとしよう。
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